意味を求めて


・・・この戦いに意味があるのかそんなことは今の俺たちには分からん。
意味なぞ今が歴史に変わってから誰かがくっつけるもんだ・・・



c:「・・・っ。一号車被弾、但し損害軽微。状況を継続します」
「「了解」」
  一瞬の間も惜しむように、砲撃が再開される。事実、一瞬の間も惜しいのだ。与えられた時間は30min。

a:「このまま次のポイントまでいけるか?」
c:「オペレーター、状況を」
d:「はい。残り58sec、次ポイントまで3km。・・・後退を提案します」


a:「くっ。煙幕展開、後退しよう」
b:「ちっ、目と鼻の先じゃねえか」
c:「無駄口叩かないで」


「「全車後退」」


  彼らの動きは素速い、口ではなんと言おうともちゃんと退いてみせる。 そこが彼らが今日まで生き残ってきた理由。

d:「カムフラージュ完了。これでいいですね。みなさんお疲れさまです」
a:「そうだね」b:「そうだな」c:「そうね」

三人三様に疲れながらも安堵を含んだ同じせりふを返す。オペレーター役も同じ気分だろう。

c:「今日はちょっときつかったわね」
d:「そうですね、数は変わってないですけど向こうのレベル、上がってますね」
b:「だからって負けるわけにはいかねえ」
a:「そうさ、みんなで突破しようね」

誰一人負けるわけにはいけない、戦場での「死」はたとえバーチャルでも二度と逢えないことを意味する。 これまで組んできた仲間を誰が失いたいものか。



d:「それじゃあみなさん用意はいいですか?」
ALL「せ〜の。<<<Log out>>>」

a:>>
ふっと目の前に広がっていた景色が溶け、目の前には「<Log out>完了」の文字が浮かび上がっている。
コンソールから手を離し、ゴーグルをはずす。まだ残る緊張をほどくためにいつものように深呼吸を三つ、 これでやっと僕は現実に帰る。

  近年、急速に高速ネットワーク回線の整備が進み、オンラインゲームは一般化した。 そのタイトルの多さは冗談ではなく星の数に匹敵する。その数多いゲームの中で、僕はこの「*****」に出会った。

a:>>
  初めて「・・・・」にLog onしたのは一月ほど前のことだ。 その日の朝は曇っていたとはいえ明るかったので傘をもっていかなかった。 校門を出たときもそんな気配はないように思えたはずだ。
  雫は突然だった。一粒、また一粒と間隔が短くなり雨が背後から迫ってくる。 どう走っても家に着く前には濡れ鼠だ。
(どこか雨宿りできる場所。あっ、あの店なら)

「ガランッ、ガラッ」
いつもは柔らかな音をたてるドアベルがやかましく鳴る。他の客の視線がイタイ。
  ともかくも座席に座り、温かい飲み物を注文する。
飲み終わり、一息つくとやっと周りを見る余裕が出来る。
(この店はやっぱり落ち着くなあ)
趣味のいいBGMが静かに時を刻む。季節の花が心を和ませる。
  ふと張り紙が目にはいる。

<二階にネットコーナー新設  1hワンコイン(ゲーム可)>

(この店にはちょっと似合わない感じもするけど、まだ止みそうにないなあ)

そんないきさつで僕は「*****」と出会ったのだ。ワンプレイ30分程度と言う紹介があったからちょうどいいと選んだのだった。

c:>>
「クリアッ」
私はようやく三度目のトライで本戦への切符を手に入れた。スキル判定はB。まあまあと言ったところだろうか。
これから待合室に入って誰かと四人一組でチームを作らなければならないらしい。

b:>>
ただ敵を撃ちまくるってふれこみで参加したが、まさか小隊組まなきゃならんとは思わなかったな。

d:>>
(あっ、まただ。どうしてだろう、胸にこんなに隙間風が吹いてくるのは。 切ないよ、寂しいよ、誰かに触れていたいよ。でも、わたし、そんなに遠出できないし、 誰も私になんか触れてくれない。)



僕たちはゲームとはいえ、暇つぶしのために「戦争」を始めた。本当のそれが何であるかも知らずに。



written by yosi (at http://pr21.ojiji.net/another/)