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コラム:クラシックの最新事情

- 2002/03/29 22:26 BBSより

  仕事柄、オリコンのデイリーチャートを毎日チェックするのが日課となっている。 だが2月のある日、アルバムチャートの異変に気づいたときはもろ卒倒しそうになった。
4位に小沢征爾&ウィーンフィルの「ニューイヤーコンサート2002」、
9位にケイコ・リーの「VOICES」、
13位にサラ・ブライトマンの「アヴェ・マリア」、
17位にエンヤ「フォー・ラヴァーズ」
とベスト20に「オトナ系」アルバムが4タイトルもランクインしていたのである。 こんな事はオリコンのチャートを見始めて30年…一度もなかった怪奇?現象だ。 元々、日本の音楽市場は中高生が対象だから、演歌、歌謡曲がスタれた80年代以降「オトナはCDを買わない」というのが業界の常識だった。 オトナは社会人になるとなぜか急にCDを買わなくなる。サラリーマンは車デート用洋楽輸入盤に走りOL達は化粧品、洋服、雑貨に凝り始める。 よくオトナたちが「俺たちの聴く音楽がない」とクレームをつけていたが、メーカー側から言わせると「CDを買わないオトナたちの為になぜ作る必要があるんだ」というのがホンネだった。 せっせとCDショップに行ってモー娘。やジャニーズ系のCD予約を入れてくれるのは中高生中心の10代である。 かつてオトナが定期的に新譜予約をしてくれたことがあったのだろうか。

  だがその風向きがここに来て明らかに変わり始めた。中高生はケイタイのパケット通信代にお小遣いを奪われCDを買う余裕がなくなった。 逆に結婚期がのびたOLは20代になっても音楽を必要とした。90年代の三種の神器〜トレンディドラマ・カラオケボックス・CDシングル〜を支えていた女子中高生がいまのOL世代なのだ。 もっとも彼らとて、いつまでもジャニーズ一辺倒とは行かない。できればもう少しアダルト的な雰囲気の音楽ライフにグレードアップしたい。 あちこち取材した結果、OLに売れるCDの法則。それは「夜、風呂から上がり寝るまでのリラックスタイムに部屋を間接照明にして、聴くのにふさわしい音楽」だった。 ワインを飲むのもよし、ハードカバーもめくるのもよし…。日々の疲れを癒し、心和ませてくれるお休み前の音楽である。しかもあまり長すぎてはいけない。

  一方、レコード会社のクラシック、ジャズ部門や洋楽部門は悩み抜いていた。昔から伝統音楽と化したものは演歌のみならず、クラシック、ジャズ、すべて最大で、シェア2%が上限だ。 そこで考え出されたのが東芝EMI『feel』やソニーミュージック『image』だ。OLたちは土日の深夜はバラエティなどは絶対に見ない。 彼らが好むのは「情熱大陸」とか「世界遺産」とか「ウルルンなんとか」などのドキュメンタリー系である。これらの番組にはなぜかBGMが使われている。 耳馴染みのこれらの曲をCF曲、映画音楽をからめてごった煮で一枚のオシャレなCDを作ってみたらどうだろか。この苦し紛れの発想がズバリ当たった。 どちらもアッと驚くミリオンセラーとなった。

  こういう下地があって今回の現象がある。オトナの買う音楽は意外と少ない。そこにエンヤやジャズ・ボーカルのケイコ・リー、クラシック声楽のサラ・ブライトマンやシャルロット・チャーチが現れたのだ。 要はタイミングの問題だった。小沢征爾はその典型といえるだろう。小沢というブランド。クラシックという高尚なイメージ。ワルツの親しみやすさ。 「次に何か買うものはないかナ?」と思っていたオトナの世代が殺到したワケだ。出荷70万枚!4千枚がクラシックの採算分岐点の世界では天文学的な数字だ。 堅苦しかったクラシックの世界にも諏訪内晶子や渡辺睦樹のように自立して自分の生きたいように活動するアーティストも増えている。かろやかなJ‐クラシックたち…。 世紀は変わり確実に新しいクラシックの風が吹き始めたようなのだ。


コンサートマスター
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