シリーズ:知られざる障害の実態

その2

−複合障害:盲聾(もうろう)について2−



前回に続き、盲聾について話しましょう。 今回は、盲聾の方々の実生活や、自分が接して感じたことなどについてです。


先日、自分はある全盲聾のEさんが主催している東京の指点字サークルに大学の先輩たちと 一緒に参加してきました。

EさんはNHKテレビに出演したり、全国で講演したりするなど有名です。
この方はサークルのイベントなどで、よく大学にいらしてくれます。このような時は基本的に、 自分たち大学生が送迎や通訳をやります。しかし、Eさんはものすごく活発で、化粧とか自分でしますし、 一人で講演に出かけたりしています。
  みなさん信じられないですよね。でも、本当のことです。

また、Eさんは、箏の先生もやっています。ここでは弟子の方が指点字で通訳します。 Eさんとのコミュニケーション手段は、指点字かカタカナ書きです。

しかし、実際に自分がEさんとコミュニケーションをとるときは、 (手話・指点字)通訳者が間に入ります。時間が掛かる上に個人的なことが話しにくいのです。 今回の通訳者は大学の先輩方だったので問題はないのですが、 一般の通訳者を介する場合、話の内容に細心の注意を払わなくてはなりません。

今回、Eさんからは、指点字をできるようにすることはもちろんですが、 指点字の読み取りもできるようになってほしいといわれました。

つまり、究極の通訳者になってほしい、ということです。 相当な技術を必要とされますが、盲聾の方々にとってはもっともありがたい存在であるからです。 大学祭くらいまでにはぜひとも身に着けておきたいものです。


さて、この指点字サークルでは、ある盲聾の子供(小学校低学年くらい)に会いました。 彼は生後まもなく盲聾になりました。したがって、話すこともできません。

しかし、指文字でコミュニケーションをとります。彼の指文字は特殊で、 普通の手話力の人には早すぎて全くわかりません。プロの通訳者でも無理でしょう。 自分は20%くらい読み取れました。

本当に特殊で、指文字が早いだけではなく、 崩し表現や普通の手話表現が混じっていて、人が話すよりも早いのです。

この時、彼の通訳をした方はかなり付き合いが長いらしく、すんなりと通訳していました。 通訳した方は「春から大学生」と言っていたので、自分よりも年下でしょうか? 難聴で、若くしてそんな通訳ができるのはすごいと感心しました。

さて、この盲聾の子は二年前から指点字サークルに通い始め、 今では、指点字による読み取りもできます。しかし最も大きな問題は知識です。

自分たちがこの子とコミュニケーションをとるとき、 どのくらいまでなら知っているのか考えなければなりません。
例えば、

「スチュワーデス」って何?

と聞かれたら、どう答えますか?

これはこの前、実際にあったやりとりです。

「飛行機に乗っていて、ジュースなど運んだり、いろいろサービスしてくれる人」


という答えで納得できたみたいです。

このように、全ての事柄を言葉で説明しなければなりません。 それ故に、盲聾の方々は情報障害者とも言われるのです。


余談ですが、自分が指点字サークルに参加したとき、弱視・聾の方がいました。 自分は大学の先輩達と一緒だったのですが、ある先輩を見たとき、その方が急に興奮しだしました。 実は、その先輩が出演した手話劇を見た、というのです。 本人にとってはあまり触れて欲しくないことでしょう、おもいっきり顔を背けていました。

実際、障害者の世界は広いようで狭いものです。
自分が所属している手話サークルは全国的に有名です。現在も通訳士として活動している方もいます。 事実、前顧問のK先生は、初の盲聾の大学生となった、福島さんの後援団体の代表を務めたこともあります。

また、福島さんは現在、大学の助教授をしておられます。 先日、福島さんが出演したドキュメンタリーがNHKで放送されました。 自分は見れなかったのですが、盲聾の人の現状を伝えたと思います。

こんなエピソードがあります。福島さんが大学の入学式が終わり、席を立とうとしたところ、 周りの大学生が、周囲のイスを除けたのです。これを察知した福島さんはこう言いました。

「君たちは、周りのほかの人たちにも同じことをするん?」

これは、一人の人間として見てもらいたい、というメッセージでもあります。 先に障害者という観点を持ってしまうと、深い交流は生まれないのです。


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