学校の階段!?

もう、戻れない・・・。

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「ど〜も、はじめまして。モニカの従兄のテムズ・アーノルドです」


  カラスの姿でいきなり現れた青年は、ご丁寧に正座をして挨拶した。


「あっ…ご丁寧にどうも。五寸健です〜」


  健は深々〜とおじぎを返した。


「山梨…達樹っス」


  達樹は何だかムスッとしている。


『桐生桜儚です』


  桜儚がそう言うと、テムズは「おや?」という顔をした。


「テムズ、彼女は…」


  撫子が慌てて説明しようとすると、テムズは彼女に微笑んだ。


「分かってるよ、君が追っていた“dirty phantom”だろ?」

「私の任務を知っていたのか…」


  撫子は複雑な顔をした。どうやら二人の間には何かあるようだ。

「あ、あの…テムズさんはどうしてここへ?」


  健が口を挟むと、テムズは笑って答えた。


「いや、単にモニカに会いたかっただけだよ。 普段は僕が忙しくてなかなか会う機会が無くて…。 で、留学で日本に行っているってフランク爺さんから聞いて、 追いかけてきたって訳」


「え、忙しいって…」

「聖アーノルド学園の校長なんだ、テムズは」


  撫子がぼそっと言った。


「え?!そ、そんな若さで?!!」


  彼はどう見たって20歳にしか見えない。 赤茶けた髪を一つに束ねていて、顔は達樹と同じくらい格好いいと健は思った。


「父さんが早死にしちゃってから、僕が務めてるんだ」

「コイツは飛び級の常連でな。16でハーバードを卒業したんだ」

「「は?!!!!」」


  さすがにこれには達樹も驚いた。当の本人は「いや〜」と笑っている。


『はーばーどって何?』


  桜儚の時代にはハーバード大学もさほど日本では有名ではなかった。撫子が懸命に説明している。


「で、18で校長就任だ」

「そ〜ゆ〜事♪」


  テムズはそう言いながら撫子の肩に手を回した…が、


「へー、それで日本語がペラペラなわけだー。すげーなー!!」


  超棒読みな達樹に間を裂かれた。さすがにこれにはテムズも「?」と思った。


「タツキ君だったね…?君は、モニカの婚約者(フィアンセ)?」


  達樹も撫子もこの質問には顔がトマトだ。


「な、ち、ち、違うっ!!!俺達、全然、そんなんじゃ…」

「そ、そうだぞテムズ!!!タツキはタツキだ!!!」


  首を高速で横に振る二人を見て、テムズは「ふ〜ん」と言っただけだった。


「…ケン、タツキ、オウナ。少し、席をはずしてくれないか…」


  撫子は首振りを終えると、いきなり真面目な顔になった。 健達は初め「?」と思ったが、撫子の真剣な目を見て静かに席を立った。




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