学校の階段!?
父(中編)
1
健と達樹は、気がつくと見慣れた場所にいた。
「…ここは…うち…?」
五寸釘神社に聳え立つ大きな銀杏の木。その下で二人は眠っていた。
「俺達、確か本に吸い込まれて…そこから記憶ないんだよなぁ…」
いてて…と達樹は後頭部を抑える。どうやら少し頭を打ったらしい。
しかし、どう見てもここは五寸釘神社なのだが、明らかにおかしい。
「あれっ、銀杏が…?」
見上げたその葉は、夏の緑色ではなく黄色に染まっていた。
「ってことは…」
「大羽神宮にいる間に紅葉しちゃったんだね〜」
「違う、それは違う」
健のボケを達樹は綺麗に処理した。
「ほら、俺達本の中だろ?で、願ったのは優秋おじさんと白井さんの間の出来事…」
「『大神霊鏡絵巻』は、今からそれを見せてくれるのかな…?」
「たぶんな」
そんな事を話していると、神社の社務所の中から人が出てきた。健は目を疑った。
「・・・父さん!!!」
いや、健の知っている父とは少し違う気がする。何だか若い。そして、髪も心なしか少し短い。
「一人で本当に大丈夫か?」
その青年は社務所側に向かって声をかける。中から出てきたのは…。
「おいおい、わしはまだ若いぞ?そう年寄り扱いせんでくれよ」
少し若い顕彰だった。白髪も今ほどなく、まだまだ中年じゃって感じだ。
「これは…」
達樹が少し驚いていると…。
「父さん!!爺ちゃん!!!!」
「あっ、バカ!!」
達樹の制止はもはや時遅く、健は優秋と顕彰目掛けて突っ走っていった。
しかし、優秋と顕彰は健が視界に入る範囲まで来ても何ら変化はない。
むしろ、健が見えていないようだ。
「ちょ…と、父さん?!!父さんってば!!」
健が優秋に触ろうとしたその瞬間―。
「…へ…?……うわっ!!!」
どさっ!!
優秋の体をすり抜けて倒れてしまった。
「・・・どういう事?」
「う〜ん…きっとホログラム映像みたいなもんだな、これは『記録』なんだ」
「大丈夫か?」と言いながら達樹は健を抱き起こした。
「じゃあ、僕達は言魂が記録した父さんと白井さんの間に起こった出来事を見てるってこと?」
「そうだろうな…」
健は若い父と祖父の会話を黙って聞いていた。
懐かしい父の声、若い頃も健が最後に聞いた「いってらっしゃい」というあの声も全く変わっていない。
ふと、健は自分が涙目になっていることに気付き、達樹に分からないようそっと手で拭った。
そして。
「じゃあ、行ってくるよ。雪葉ちゃんに父さんのご飯頼んでおいたから、ちゃんと食えよ?」
「雪葉さんの飯は美味しいからのぅ…。いい嫁さんじゃの」
「おいおい、雪葉ちゃんと僕はまだ結婚してないよ」
「何を言うか、おぬしが大羽神宮から帰ってきたら結婚するんじゃろうが?」
「ど、どうしてそれを!!」
「この間雪葉さんが家に来た時言っておったではないか?
ほれ、『優さん…』『雪葉ちゃん…』とか甘い声で何度も呟きながら激しく燃えておった…」
「い、いいいいいいいいいいいいいい行ってきます!!!!!!!!!!!」
優秋は顔を真っ赤にして家を後にした。顕彰はニコニコして手を振り、息子を見送った。
「まったく、優秋も成長したな…あの大羽神宮に奉公に行くとは…」
顕彰のその言葉で、健は『記録』の父が18歳だと気付いた。
「父さん、実はねずっと奉公に行くのを嫌がってたんだ」
「何でだ?」
「父さんも霊力が強くて、大羽神宮は是非神宮直属の神主になって欲しいってずっと誘ってたんだって。
でも、神宮に一度入ると親族が神霊者でない限り会うことは出来ないんだ」
「でも、顕彰さんだって健の婆さんだって神霊者なんだろ?」
「お母さんは違うんだ。父さん、高校を卒業したらお母さんと結婚するつもりだったから…」
優秋と雪葉は幼馴染だ。そんな愛しい人に会えないなんて、優秋には耐えられなかった。
「優秋おじさんらしいなぁ…」
達樹がにっこり笑うと、健もにっこり笑って「でしょ?」と言った。
すると、突然周りがザザザ…と映らないテレビのようになり一気に舞台が変わった。
「ここは…」
「大羽神宮だ…」
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