学校の階段!?

父(中編)

2

  健と達樹がそんな事している時…。


『さ〜て、そろそろ各部屋のお掃除に行きますかね』


  桜儚は庭を掃き終えた。撫子は神霊術の特訓のため、そこにはいない。

  今日の桜儚は修行メニューがお休みなので、 「先輩は部屋の掃除でもしてください」と坂下に言われたのだ。


『…でも…』


  そう言って、桜儚はちらりと渡り廊下と1つの蔵に視線をやった。 そこは健と達樹がいるはずの蔵。しかし、もうすぐ昼だというのに2人は一向にこの渡り廊下を通らない。 ここを通らないと本館へは行けないのだ。


『健はともかく、達樹君まで何してるのかしら…?』


  健、ひどい言われようである。桜儚は箒を掃除用具入れにしまうと、てこてこと渡り廊下を渡った。 行き先は蔵である。


『すいませ〜ん、ここに健と達樹君いますか〜?』


  扉の前で声を張り上げてみたが、中から返事はない。 霊力が弱まっているせいで普通の人間と同じようになっている彼女の声が聞こえないはずない。


『おっかしいわね〜…よいしょっと…』


  少女には少し重い扉を開けて、桜儚は蔵の中へ入った。中は1ヶ所を除いて真っ暗である。


『…あそこだけ明るい…?』


  桜儚はそこに引き寄せられるように足を進めた。明るさの中央にいたのは白髪の美少女だった。



「おぬしは…桐生桜儚、じゃな?」

『あなたは…?』

「4月5日生まれ、B型、緑ヶ丘市立大羽高校1年…いや、あの頃は、大羽神宮附属青少年学校じゃったか…」

『そうだけど…』

「11月7日、校舎の階段から転落して死亡、享年16歳。その原因は……リュウという男が…」

『な、何でアンタがそんな事知ってんのよ!!』


  思わず、桜儚は大きな声を張り上げてしまった。美少女はその髪を手で弄びながら不敵な笑みを漏らした。


「何でかのぅ?わしが知っているのは、お前さんの死因だけではない。 わしはこの世のあらゆる出来事を知っておる、そして…ほんの少しだが、未来も知っておる」


  その言葉に、桜儚は思わずドキリとしてしまった。 「未来」…そんなもの、自分にはもう少しでなくなってしまう。


『…リュウを忘れることは出来ない…アイツに分からせてやりたいのよ。 私がこの75年間、どんな思いでこの世に留まっていたかを…でも…』

「でも?」

『それを果たしたら、私は……健に二度と会えなくなる…』


  桜儚は下を向いた。足が見えた。そうだ、分かっている。 それを果たさなくても、自分はもうすぐ健に二度と会えなくなる。


「“寿命”か…自縛霊も酷い運命じゃの」


  雅は複雑な顔をして、すっと本を開いた。



『…何それ?』


  桜儚がそっと横から覗き込む。


『…健?達樹君?!』


  そう、その本のイラストのような部分にしっかりと二人がいた。


『ちょ…これ、どういう事?!!』

「桜儚よ、愛しき者を助けたいか?」

  桜儚は目の前の少女の目にドキリとした。この少女が何者なのかは分からない。 しかし、その言葉と目が全てを物語っている。


『…どうすればいいの?』


  答えは、決まっていた。





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