学校の階段!?

父(中編)

9

  五寸家の蔵。


「ここだよ、雪葉ちゃんが倒れていたのは」


  優秋はそれしか言えなかった。白井はその場所に黙って歩いていくと、くるりと優秋の方を向いた。


「・・・優秋。私は・・・どうしていいかわからないんだ」


  優秋はドキリとした。白井は憂いと、別の何かが入り混じった顔をしていた。


「・・・私は・・・ユキを愛していた。もう実らない恋だとは分かっていても、 心の何処かにユキを愛する気持ちは残っていた。 そして、優秋、お前が・・・・・・私のたった一人の友人であるお前が、 私の愛するユキを幸せにしてくれるならそれでいい・・・本当に、そう思ってた」


  優秋は、ただ黙って聞くしかなかった。


「お前は誓ってくれた。ユキを幸せにすると・・・だが、現実はどうだ?!」


  いきなり白井の口調が変わった。激しさがいきなり現れる。


「ユキは死んだ!!彼女はこれで幸せな一生だったか?!!」

「白井、彼女は・・・」

「あぁ、分かってる!!彼女は愛する息子を守ろうとしたんだろ?!! 分かってる、そんな事・・・分かってるんだ・・・!!」


  激しさの中に、悲しみの声が重なり始めた。


「でもな、私はどうしても・・・お前を許せないんだ・・・!!」


  そこまで言い終えると、白井はキッと優秋を睨み、素早く手を動かし始めた。


「白井・・・何をする気だ?!それは禁術の・・・」

「私はこの6年間、この術を得る為だけに生きてきた・・・貴様へ私の悲しみをぶつけるために・・・」

「白井、お前・・・!!」


  優秋には、白井がニヤリと笑った気がした。


「くらえ、優秋!!」


「おい、優秋!?ここから物凄い『気』の流れを感じるのじゃが・・・」


  そんな時、顕彰が慌ててやって来た。しかし、もう遅かった。


「?!!!」


  目の前には扉というか、巨大な扉つきの鳥居というか、奇妙な物体。 そこから恐ろしい勢いで流れ出てくる魑魅魍魎たち。そして、それに食いつぶされていく・・・優秋。


「ゆ、優秋?!!!」


  顕彰は印を結ぼうとした、が。


「父さん!!来ちゃ駄目だ!!」


  優秋は精一杯の声をあげる。体はもはや、半分がない。


「父さ・・・これは・・・ば・・・つ・・・!!!」


  その声が消えた時、優秋の体はもうそこには存在しなかった。 『門』はなくなり、術を使った白井の姿も何処かへ消えうせていた。


「・・・ゆ・・・う・・・しゅ・・・・・・・」

  顕彰とその声だけが、蔵の中で『生きている』もの達だった。




第14章 了
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