学校の階段!?

第16章 久しぶり。

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夏の盛りの時期になった。ここのところずっと暑い日が続き、蝉も盛んに鳴いている。 ニュースでは、この猛暑で水不足や熱射病の恐れがあるから、 くれぐれも注意するようにと連日警告を促していた。

そんな猛暑の中、大羽神宮の中が慌しくなってきた。朝から晩まで威勢のいい声が聞こえる。 普段は神主姿でまったりと過ごしている神霊者の皆様も、 この時期だけはガテン系の兄ちゃん達のように服装も言葉遣いもたくましくなる。


「おーい!!やぐらの土台って何処に置いてあったー?!」
「あれは倉庫のいっちばん奥だ!!」
「おい、釘さびてるぞ!!誰か買って来いやー!!」
「あ、自分が行きますー!!」

ランニングシャツにダボダボのズボンに黄色いヘルメットという、 どう見ても工事現場にいらっしゃる方々の服装をした人々が、神宮内をうろちょろする。

「どうだね?順調に進んでおるようだが・・・」
「あっ、総代!!はい、順調です!!」

黄色いヘルメットに神主姿という微妙な格好をした坂下は、部下の答えを聞いて微笑んだ。 もうすぐ、大羽神宮最大のイベント「大羽神宮祭」が行われる。今はその準備の真っ最中だった。

「総代―!!」

30代の部下が慌てて走ってくる。

「どうした?何かあったか?」
「五寸(いつすん)が倒れました!!今、部屋で寝かせてありますがおそらく熱射病かと・・・」

その言葉を聞いて、坂下は慌てて患者のところへ飛んでいった。



「健〜、大丈夫か〜?」

クーラーのかかった和室に布団が敷いてある。ガテン系の格好が非常に似合う美青年、 山梨達樹が氷水の入った洗面器にタオルを突っ込み、ぎゅっと絞っている。 布団の上には、同じような格好をした眼鏡の少年がぐで〜っと横たわっていた。

「・・・ひゃ〜ひゅ〜ひぃ〜・・・・・・」

少年はぐるぐる回る視界と妙な熱っぽさで言語が地球外になっていた。 ちなみに、今のを地球語(日本語)に直すと「・・・た〜つ〜きぃ〜・・・・・・」となる。

「健ーっ!!しっかり!!しっかりしろ氷水飲め!!」

達樹はタオルを絞った氷水を健に飲ませようとした。 お前の方がしっかりしてくれ、一応美形キャラなんだから。

「タツキが壊れたーっ!!」
『大丈夫、元はしっかりしてるから』

そんな達樹を羽交い絞めにしつつ、 ちょっぴり泣きそうな金髪美少女・撫子の嘆きを桜儚がフォローイングしてあげた。

「・・・皆、ありがとぉ〜・・・でも、僕・・・大丈夫〜・・・」

達樹が絞ったタオルを自分で額にあてながら、健はゆ〜っくり喋って笑顔を見せた。 まだ体は熱いが、だいぶ楽になった方だ。

『・・・本当に大丈夫なの?』

桜儚が心配そうに顔を近づけてきた。健の顔が真っ赤になっていく。

「あ、う、うん・・・大丈夫・・・」
『ちょっと、どんどん顔赤くなってくじゃないのー!!まだ大丈夫じゃないわ!!』
「それは桜儚さんのせいだと思うけどな♪」
「た、たつっ・・・!!」

正気に戻った達樹がニヤニヤしながら言った。健の顔は更にトマトになった。

『?どういう事?』
「タツキ?オウナが何か霊力でも使っているのか?」

女子二人は、その意味に全く気付いていなかったが。



「健君、大丈夫か?!」

そんな時、坂下が障子を開けて到着した。ちょっぴり息切れしている。

「さっきよりは良くなったみたいですよ、ちゃんと喋れるようになりましたし」

達樹が詳しく事情を説明する。太陽の照りつける中、 材木を運んでいたら急に気分が悪くなり倒れこんだのだという。

「症状から見ても熱射病ですね、健はよく夏に熱射病にかかるんで・・・」

坂下は一通り説明を聞き終わると、撫子と桜儚に装飾品や衣装の点検を頼んだ。

『ったく、それくらい自分でしなさいよっ!!』
「まぁまぁ・・・サカシタさん、装飾品とはaccessoriesのことだろう?」
「うむ、巫女さんだけがつけるものでな。宝石ではないが結構綺麗だぞ」
「だって、オウナ!!見に行こう♪」
『ちょ・・・撫子―っ?!!!』

撫子はルンルン気分で桜儚を引きずって行った。よっぽど装飾品に興味があるのだろう。 男三人は、それぞれの表情で二人を眺めていた。



「・・・健君、具合はどうかね?」

坂下は、そっと健の枕元に近づいた。顔の赤みも引いているし、もう大丈夫だろう。

「はい、もう大丈夫です〜」
「良かったぁー!!でも、もうしばらく安静にしとかないとダメだぞ?」

達樹の言葉に健は笑顔でうなずいた。

「健君」

坂下の少し深刻そうな声に、健も達樹も少し驚いた。

「ひょっとして・・・先日言った事を気にしておるのではないか?」

健は少しぴくっとした。達樹は何の事だか分からず、二人の顔を見やるだけだった。

「・・・気にしていない、と言えば嘘になります。でも・・・」

健はぎゅっと拳を握り締めた。

「僕には・・・どうすることも出来ない・・・」

そんな辛そうな健を見ていて、達樹はいてもたってもいられなくなった。

「健・・・あのさ、聞いてもいいか・・・?・・・何か・・・あったのか?」

達樹の問いに、健はゆっくりうなずいて答えた。

「桜儚・・・・・・もうすぐ、永久に成仏出来なくなっちゃうかもしれないんだ・・・」

「どういう事だよ・・・それ」




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