学校の階段!?

第16章 久しぶり。

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「どういう事だよ・・・それ」

達樹は何も聞いていなかった。健の口から発せられた答えは、嘘にしか聞こえなかった。

「言った通りだよ・・・桜儚は、もうすぐ自爆霊としての“寿命”を迎える。 その時が来たら、永久に成仏出来なくなって、“闇”に引きずり込まれてしまう・・・」

健の手は小刻みに震えていた。

「・・・自爆霊にも“寿命”なんかあるのか?」

霊といえば、何百年も自分の怨み辛みを果たすまで居座り続けるものだと達樹は思っていた。

「うん、基本寿命は75年なんだ。ただ、“寿命”がきて“闇”に引きずり込まれると霊は妖になる ・・・そうなると妖力を持って、こちらの世界に来ることも出来るんだ」
「なら、“寿命”がきた方が好都合・・・」
「そうかもしれん。でも実際に妖となった霊は、 霊の時の記憶を全て失う・・・わけも分からないまま、ただひたすらにこちらの世界に留まり、 “闇”に適応するよう作り変えられた体は“光”を浴びることで蝕まれ続け・・・ 結果的には苦しむことになる」

坂下は真剣な顔でそう言った。 達樹は「あ、そっか・・・」と自分の発言が軽はずみなものだったと思った。

「・・・早く、桜儚を成仏させてあげないと・・・」

健は言葉ではそう言ったが、胸中複雑なのを達樹は分かっていた。 桜儚の恨みを晴らして彼女を成仏させるのが当初の目的だった。 そのために、桜儚は健にとり憑き、健もその目的に賛同した。 それから色々な事件が起こり、桜儚の目的達成は延び延びになってはいたのだが、彼女も健も、 そして達樹もそれを忘れてはいなかった。成仏させるということは桜儚とは二度と会えなくなる ・・・そんな当たり前の事を、健はまだ受け入れたくなかった。

「・・・そうだ!!坂下さんに見て欲しい物があるんです」

健は急にその存在を思い出した。今まで全くといっていいほど忘れていたのだが 、桜儚の本来の目的の話をしていたらふっとその存在を思い出した。 そう、まるで“それ”に導かれるように。そして、ごそごそと風呂敷の中を漁る。 取り出したのは、古い感じの木製の箱だった。

「これ・・・は?」

坂下は何かを感じたようだが、まだ確信が持てない。健はそっと蓋を開けた。 中から、あの不思議な色の翡翠の首飾りが現れた。

「小村源三さん、というお爺さんから預かった物です。 実は、その方は桜儚の生きていた時を知っている人で・・・」

健は1ヶ月ほど前に小村雑貨店で起こった全ての出来事を話した。 (第9話参照)坂下はそれを真剣に聞きながら、視線はずっと翡翠の首飾りに落としていた。

「・・・なるほど。先輩の恋慕の相手がのぅ・・・」
「で、その首飾りなんですが・・・」

健が何かを言おうとした時、坂下がそれを止めた。

「分かっておるよ、微弱な霊力を感じるのじゃろ?」

達樹は「そうなのか?!」という表情で健の方を見た。言葉は出なかったが。健はゆっくりと頷いた。

「僕、これを源三さんから受け取った時から、何か感じるものがあったんです・・・。」

温かいけれど、どこか寂しく悲しい色――健はこの翡翠の不思議な色をそう言った。 坂下は色々な角度から翡翠を眺めたり、う〜んと唸りながらじっと見つめてみたりした後、結論を出した。

「一度、この中にいる“者”に聞いてみるかな。」




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