学校の階段!?

第16章 久しぶり。

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桜儚は、健が急に大人っぽくなったような気がした。いや、健は時々こういう表情をする。 初めて会った時は、あんなに頼りなくて子供のような奴だと思った。 “アイツ”と―リュウと顔がそっくりなのに、精神的にはまだまだリュウの方が大人だ―そう思っていた。

でも、それはリュウと健を比べていたから・・・健を見ようとしなかったから、 そう思っていたのだ。実際の健は、桜儚が想像していた以上に大人だった。 多くの辛い体験をしてきたはずなのに、こうして今、あんなに優しくて温かい笑顔を見せてくれた。 健だけにしか出来ない、その大きな瞳が優しく細められた笑顔を。 今はただ、首飾りの封印を解こうと頑張るその背中を見守ることしか出来なかった。 今までで1度しか感じたことのない、その気持ちとともに。


「・・・よしっ、いくよ!!“汝、リュウよ。我、五寸健の名のもとにその封印解き放て、 その言霊、思いを託して!!”」

健のその呪文が合図となったかのように、首飾りから先ほどのような青白い稲妻が飛び出してきた。 桜儚が触れた時の量など比ではない、何百、何千という青白い電撃が健や撫子の周りを物凄い速さで 貫きながら進んでいく。二人とも桜儚にも自分達にも防護壁を貼りながら、 何とかそれが収まるのを待った。

「け、ケンっ!!大丈夫かっ?!!」

稲妻のバチバチという凄まじい音の合間に、撫子が大声で叫んだ。 健は桜儚も撫子も無事だと分かると、軽く微笑んで頷いた。


その時。

「ごめんね・・・・・・」

声が、聞こえた。

「この声・・・・・・」
『リュウの声だわっ!!』

先ほどのホログラムの声だった。桜儚が言うとおり、それはリュウの声だった。 健よりもやや低い、優しい声だ。

「ごめんね、桜儚・・・君を苦しませて・・・」

その優しい声は、言葉を続けた。

「健っ!!分かったぞ、桜儚さんの相手!!」

その声と同時に、達樹と坂下が部屋に入ってきた。

「達樹っ!!坂下さんっ!!」
「健君!!これは・・・」
「封印を解いたんです、そしたら凄い稲妻で・・・・・・」

坂下はそう言いながら、ドームのような防護壁を自分と達樹に貼った。 健はじりじりと首飾りから離れ、達樹に近づく。

「達樹、分かったって・・・・・・」
「おぉ、あのクソジジィが教えてくれたよ」
「雅さんが?!」

「さっすが950歳だよな」と苦笑いしながら、達樹は続けようとした。
しかし、首飾りから稲妻の代りに突風が吹き出し始めた。

「す・・・・・・吸い込まれる!!?」
「皆、柱に捕まるんじゃ!!」

坂下の声で、それぞれが部屋の柱に捕まった。

(・・・・・・リュウさんは、僕達を呼んでいるんじゃあ・・・?)

健は、何故かそう思った。そう思いながら首飾りの方を見ると、首飾りが一瞬だけ、 淡く光った。「こっちに来い。全て見せてやる」―そう言っている気がした。

「け、健っ!!!?馬鹿っ!!!」

達樹が叫んで服を掴もうとした瞬間は、もう遅かった。
健は、首飾りの中に吸い込まれていった。

『健っ!!!!!!』
「お、オウナっ!!?」

桜儚とともに。
風は、止んだ。

「あいつ・・・・・・知ってるのか?リュウって奴は・・・・・・」
「?タツキ?」

「リュウって奴は、本名・・・・・・」


「五寸龍水、五寸顕彰の兄じゃよ」

達樹の後ろから現れた雅は、そう言った。

そして、健と桜儚は運命の歯車に巻き込まれる。

もう、戻ることは出来ない。

第16章、了


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