学校の階段!?

第17章 ほんとうの、きもち。

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そこは、机と椅子と黒板のある、普通の教室だった。造りが現在のものとは違って、全て木で出来ている。 後ろにもある黒板には、もうすぐ始まる定期試験の連絡事項や誰かと誰かの名前の書かれた 相合傘の落書きがチョークで書かれてあり、生徒達がここで生活しているという雰囲気がよく出ていた。

『あら、懐かしい!!ここ私のクラスよ!!』

桜儚がはしゃいでみせる。教室中を走り回ったりとか、黒板の相合傘の落書きを見て笑ったり、 本当に生き生きとしている。健は先ほどと同じような感じを覚えた。 自分の知らない桜儚がそこにいる―そう考えただけで嫌なのだった。

しかし、リュウとの思い出を語られるのほど苦痛でも悲しくもなかった。 桜儚が懐かしさに浸っている間、健はきょろきょろと辺りを見渡す。 そして、ふと目に留まったものがあった。

花瓶だ。そこにはコスモスが一輪、ぽつりとさしてあった。

『そういえば、これリュウが持って来たのよね〜。二人で水替えしたっけ』
「・・・あっ」

健の脳裏に一閃の電撃が走る。数ヶ月前に聞いた桜儚の言葉が、ふっと甦る。

『アイツは…そう、健みたいだったわ。牛乳瓶の底みたいなぶ厚〜い眼鏡かけてて、 髪も寝癖満歳で、な〜んか頼りなさそうで…。でもね、ちゃんと良い所だってあったのよ。 すっごいお人よしだったの。アイツ、いっつもクラスの皆が嫌がりそうな仕事押し付けられてたのよ。 黒板消し、金魚の水槽の掃除、廊下の雑巾がけ、ゴミ出し、飼育小屋の掃除に、毎日の花の水かえ。 …でも、アイツは嫌な顔一つせず笑顔でやってたわ。そんなのを見てるうちにね… いつの間にか私もアイツの手伝いをするようになってたの』

「あれは…リュウさんのことだったのか」

繋がった、一つの要素。でもそれは、全てのピースを繋げるものになる。

待てよ。

桜儚がそう答えた前、僕は何て・・・。

何て質問をした・・・・・・?

「そういえば、桜儚の怨んでる人ってどんな人なの?」

“怨んでる人”。

それは、

桜儚を殺した相手。

僕と桜儚が、

ずっと探してた人。

歯車の回転が大きくなった。
その運命の流れは無情なほど、速く。

そして、もう誰も止められない。

健はそのピースをはめてしまったことを、呪った。
分かってしまった、その全貌が。
でも、まだ全てを突き止めたわけじゃない。
聞かなきゃ、全てを。
「お・・・桜儚っ!!」

そう言った時、健の声はどう頑張っても震えていた。桜儚はそれまでのはしゃぎを止め、健の方を向く。

「・・・聞きたいことがあるんだ、教えてくれないかな・・・?」

桜儚はふぅっとため息を一つついて、笑顔になった。

『・・・そろそろかなって思ってたのよ、アンタが気付くの』

そして、いいわ、と一言短く言った。

「・・・君の・・・死んだ日のことを・・・聞きたいんだ」




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