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学校の階段!?

第1章  出会いは始まり

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  時は平成14年4月、場所は緑ヶ丘町にどでんと建っている平凡な神社。
その名も『五寸釘神社』。…何だか呪われそうな神社名だが、最初にここを建てた人が『五寸釘』という偉い神主さんだったそ〜である。ちなみに、彼の苗字は『五寸(いつすん)』、名前が『釘』である。
  そんな神社から飼育中の鶏の鳴き声がし始めた。夜明けである。
そして、境内の裏に建っている一軒家からも違う音がし始めていた。

ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ…。

そんなに鳴って疲れないのだろうかと思うくらい小刻みで同じリズムの音を繰り返し鳴らしているのは、ある部屋の目覚まし時計である。
彼はこんな早い時間にセットした持ち主を起こそうと必死こいていた。

「……ん〜?」

その持ち主は寝癖満載の髪の毛をわしゃわしゃしながら枕から頭を上げた。

「えっと…眼鏡眼鏡っと…」

これは眼鏡をかけている人にとっては朝のお決まりの風景であろう。
彼――五寸健も同じように枕付近を手探りでバンバン叩きながら眼鏡を探した。

「あれ?…無い…無い…」

いつもなら0.3秒くらいで見つかるのに、今日は何故か見つからない。 彼はバンバン叩きまくった…そして。

バンッッッッッッッ!!!!!

「…あれ?」

彼は目覚まし時計を殴り倒してしまった。目覚まし時計はせっかく必死こいていたのに、 殴られた拍子に音も止まり、あろう事か横へ倒れてしまった。

ぱりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃんっっ!!

とってもガラス製品な音がした。

「…まさか…。」

彼はとっても最悪で、でんじゃらすな結果を予想していた。 しかし、前はぼやけて4次元空間である。

「健〜、起きてるか〜?入るぞ〜。」

がららって引き戸を開けて、彼の祖父である五寸顕彰が入ってきた。

「…その声はじ〜ちゃん?おはよ〜。」

まるで誰だか分からない4次元生物に向かって五寸健はぺこりと頭を下げた。

「『おはよ〜』じゃないだろ…また眼鏡を割ったのか…」

顕彰はあきれてため息をついた。最悪で、でんじゃらすな結果だった。

「…やっぱり割れてた?」

健は予想通りになって嬉しいやら悲しいやらだった。

「どうするんじゃ?お前、今日から高校じゃろ?」

沈黙5秒間。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!忘れてたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

鶏もショック死しそうなくらい近所迷惑な叫び声だった。

「まったく…お前のそ〜ゆ〜所は『奴』とそっくりじゃな…」

顕彰は一度居間まで戻ると、タンスの引き出しから健の予備の眼鏡第4683号を持ってきた。

「ほれ。」

「ありがと〜、じ〜ちゃん。」

予備眼鏡をかけて、健はやっと目の前が地球の自分の部屋だと認識した。

「それより、まだ出かけんでいいのか?遠いんじゃろ?」

しかし、時刻は朝の5時50分である。

「あ!!やばい!!入学式は8時集合だっけ!!!」

どっこい、健は慌てまくった。

「ご飯はもう出来とるぞ〜。」

「ありがと〜、じ〜ちゃん!!」

健は真新しくない学生服に着替え、ぼろぼろの鞄を持った。全て近所の人のお古なのだ。 台所に置いてあったご飯と味噌汁を一気に食道へ流し込み、むせまくりながら家を出た。




 それから1時間後、五寸釘神社。

「おーい、健―!!学校行こうぜー!!」

いかにも爽やかスポーツマン系の青年が五寸家の扉を叩いていた。

「おぉ、達樹君ではないか。」

神主ルックの顕彰がほうき片手にやってきた。

「あ、顕彰さん。健は?」

「健なら2時間前に出てったぞ?」

「は?!だって、高校まで電車で15分、そこから自転車で20分ですよ?」

五寸健の幼馴染兼親友、山梨達樹はあきれた。

「それが健の奴、『定期と自転車代が勿体無いから徒歩で行くよ』って…」

顕彰も少しあきれている。

「…まぁ、健らしいですよね。」

「そうじゃのぅ…。あやつ、わしに負担をかけさせまいと思っとるのかもしれん…。」

「そうですね、健の両親は…」

いつの間にかしんみりむ〜どになってしまい、達樹はそこで口をつぐんだ。

「あ、じゃあ俺そろそろ…」

「うむ、そうじゃな。健の事頼んだぞ!!」

達樹は駅に走っていった。 顕彰の独り言は春の風にかき消された。

   「健は…本当に『奴』そっくりじゃよ…」







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