学校の階段!?

第4章  10年前の真実

1

  達樹が目覚めて1階に下りると、もう健の姿はなかった。
代わりに、台所のテーブルには広告の裏に書いた書置きが残されていた。

『達樹へ

   おはよう。ちょっと用事があるから、先に学校行くね。』


「…っかやろう…。用事なんか無ぇくせに…」

達樹は広告をクシャッと手で丸めた。

「気にしてんのかな、やっぱり…」

達樹はそう思いつつ、冷蔵庫を開けた。冷蔵庫にはきちんと切られた漬物と、鮭の塩焼きが入っていた。
もう1週間、達樹は家で健と顔を合わせていなかった。


『あら、早いじゃないの。』

健が珍しく朝イチに現れたので、桜儚は驚いた。

「うん…ちょっとね。」

健は生返事をして階段に座り込んだ。桜儚はいつもと様子が違う事に気付く。

『…今日、達樹君は?また家の用事?』

いつもなら一緒にいるはずのスポーツ青年が今朝はいない。

「…あぁ…」

健はそんな返事をした後、ちょっと笑って言った。

「置いてきちゃった。」

『…は?!どうしたのよ一体!?喧嘩でもしたの?』

「違うよ…」

そう言って健はうつむいた。

『違うって…どう違うのよ?説明しなさ……』

桜儚の追究はそこで止まった。健の目から涙が流れ落ちていた。

「…桜儚…僕は、達樹には不釣合いなのかな?」

桜儚は健の質問には答えられなかった。


  達樹が教室に着いたのは、いつもより1時間も早かった。

「あ、おはよー山梨君♪」

達樹の席に近いイエロー歓声な女子が声をかけた。

「おはよ…なぁ、健見なかったか?」

「え?!…う、う〜ん…見てないなぁ…」

女子Aは朝から達樹に声かけられた事で幸せゲージMAXだった。

「そうか…さんきゅ。」

そう言って達樹は教室を出た。
女子Aは嬉しさと幸せ満載の為、今日は花畑で蝶と戯れようと思った。

「達樹のお父さんが昨日、家に来たんだ。」

一方、健は階段に座り込んだまま、ぽつりぽつりと経緯を話し始めた。

「…達樹は医者の家系でね、将来は当然医者になるんだ。それは、僕もずっと達樹から聞かされてて知ってた。…でも、知らなかった。医者になるのがそんなに難しいなんて…。だから、お父さんは僕に達樹との付き合いを止めてくれって言った。」

『それなら、アンタが達樹君に釣り合う云々は関係ないじゃない。』

「違うよ…達樹のお父さんは、僕を嫌ってる。僕は頭良くないし、達樹と進む道も違う。大学受験なんかほとんど関係なく、神主になる勉強だけをするだけ。それに…小さい頃から言われてた。僕は『不幸な子』だから…僕と付き合うと…不幸が移るって…達樹のお父さんは…未だにそれを思ってる…」

『…健…アンタ…何があったの?』

その時だった。


      「健!!!!!」

健と桜儚は、同時に声のした方へ顔を向けた。

「達樹…」

『達樹君…』

達樹は健の方にズカズカ歩み寄ると、何も言わずに頬を叩いた。

『ちょっと、達樹君!!!』

桜儚の声は達樹の耳には届かない。

「健…お前、まだそんな事言ってるのか?」

「達樹…君は…何も知らないんだよ…僕は、本当に…」

「そんなの知るかよ!!!」

達樹の怒った声に、健も桜儚もビックリした。
  健は、達樹がこんなに怒ったのを見たのは初めてだった。

「…もういい。お前の顔なんか見たくねぇよ。」

そう言うと、達樹は踵を返して歩き出した。

  去って行く達樹の背中がぼやけてはっきり見えなかった。






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