学校の階段!?

第4章  10年前の真実

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  健と達樹の険悪ムードは1年2組中の空気を重い物にしていた。
クラスの皆は、いつもならベッタリの二人が1週間も壁1枚隔てている事についてヒソヒソ議論しあった。

「喧嘩したんだよなぁ…あの二人。」

「そうでしょ?でも、山梨君も五寸君も怒ったりしなさそうよね…」

「そうそう、山梨君は仏のように優しいのよ〜!!」

「うん、そうよ!!私、昨日の授業中、あくびしてたの見ちゃった〜♪」

「うっそー!!」

「いいなぁー!!」

「格好良かったな〜♪彼のあくびなら一日中でも拝みたいわ♪」

「ちょっと、今度写真撮りなさいよ!!」

途中から話題は『山梨達樹ファンクラブ』(既に創設済み)の会員によって邪魔されたが、とにかく空気はいつもと違っていた。


  放課後、達樹は同じ中学の友達の要請でバスケ部に助っ人に行った。

「お、助っ人?久しぶりだな〜。行く行く〜。」

「いいのか?いつも五寸と一緒にどっか行ってるけど…」

「…いいんだよ、もう。アイツの事は。」

達樹はぷいと横を向いて、借りたユニフォームに着替えた。



      ピー――――――――ッッッ!!


審判のホイッスルと共に、ボールが高く掲げられた。


味方が上手く達樹にボールを回す。


達樹はドリブルで敵を次々と交わして、思い切りダンクを決めた。



「キャー―――――ッッッ!!!山梨君――――っっっ!!!」

体育館の2階からは相変わらずのイエロー歓声。

「ナイス、山梨!!」

後ろから肩を叩かれた達樹は、返事が出来なかった。

  いつも自分の試合を一生懸命応援してくれていた眼鏡青年を思い出していた。


  健は1週間ぶりに用務員室に行き、坂下と羊羹を食べていた。

「京都の和菓子屋から取り寄せたんじゃ。もうすぐ婆さんの誕生日でな。」

坂下はニコニコしながら玉露を淹れてくれた。

「いいんですか、僕なんかが食べて…」

健は美味しい〜と涙を流しながら、そう言った。

「うむ、これは健君と達樹君の分じゃからな。」

坂下の言葉が、健の胸にざくっと刺さった。
つまんでいた羊羹を皿に置き、下を向いてしまった。

「…喧嘩したんか?」

「…僕が…悪いんです…」

坂下は玉露の入った湯のみを健の前に置くと、腰を下ろした。

「原因は…本当にお前さんなんか?」

健は黙って頷いた。

「…桜儚には…もう言ったんですけど…僕は…『不幸な子』だから…達樹のお父さんが…もう…達樹と付き合うのを止めてくれって…」

ポロポロと勝手に零れる涙を拭いながら、健は話した。


何故、自分が『不幸な子』なのかを…。
用務員室の外の廊下には、桜儚が浮かんだまま聞いていた。

  そして、彼女は一人の影が自分に近づいてくるのに気付いた。


「僕の家系は代々霊力持ちで、何十年かに一人、とんでもない霊力を持った子が生まれるんだそうです。僕が…そのとんでもない霊力持ちで、その子は禍を招くと言い伝えられてきてるそうです。だけど、爺ちゃん婆ちゃん達も、両親も、一族皆僕には優しくしてくれてて…。すっごく幸せだった…10年前までは。」

「10年前?達樹君が来てからかね?」

坂下はわざと達樹の名前を出したが、健は首を横に振った。

「達樹がここに引っ越して来たのは10年前の秋なんです…あんな事が起こったのは、それより半年くらい前でした…。」

坂下は健に気付かれないよう、そっと用務員室の扉を開けた。

  二人、静かに入ってくる人影があった。






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