『テムズさん、まだ意識はありそう?』


  あまりの突然の質問に撫子は呆気にとられたが、サタンと化した彼を見てみた。


『・・・分からないが、まだサタンに意識を乗っ取られて少ししかたっていない。 おそらくテムズの意識は奥で眠っているはずだ』



学校の階段!?

もう、戻れない・・・。

12

  サタンは契約を交わした人間の体内に入り込み、まずはその意識を乗っ取る。 この時本来の人間の魂はサタンの術によって眠らされている。

  しかし、サタンの活力源は人間の生きた魂に宿る生命力だ。 慣れない肉体の酷使でサタンの魂は疲労し、遂にはその眠らせた魂を食べて完全にその人間を支配する。

  だがしかし、サタンが本来の力を出し切る前に肉体は限界に達する。 あまりの魔力の大きさに肉体がついていけないのだ。

  神霊者は血の流れが異なるのでどうなるかは未知の領域だが、 除霊者や魔術師といった西洋術者に属する血を受け継ぐ者である場合には 1年で肉体が朽ち果てると言われている。朽ち果てるというよりは、 体内に溜まった魔力の負荷に耐え切れず、肉体が爆破すると言った方が良い。


『分かったよ、ありがとう』


  念でそう言うと、健は撫子の方を向いてにっこり微笑んだ。

  撫子はその笑顔で何かを感じ、頷いた。2人にしか分からない、“作戦”の確認だった。


「摩!!」


  健の神術の呪文が大きく叫ばれた。淡い光線がサタン目掛けて飛んでいく。

  サタンはふっと笑って右手の人差し指を伸ばし、その長く伸びた爪の先で大きく円を描いた。

  あっという間にサタンの周りは黒いセロハンのような膜で覆われ、光線は遮られた。


「あれが黒魔術のバリア・・・」


  健は初めてそれを見た。神霊者のバリアは術者の持つ力によってその色が変わるが、 どれも澄み切った明るい色をしている。健にとって「黒」のバリアは異様だった。


『無駄じゃ!!そんな儒子が放つ技など、予の美しい肌にも触れられぬ!!』


サタンは勝ち誇ったような笑みを漏らした。しかし、


「それはどうでしょうか?」




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