学校の階段!?

父(前編)

7

  しかし、達樹の両親はこれを快く思っていなかった。


「五寸さん、あなたの奥様は不可解な死を遂げられたそうですね」


  ある日、突然達樹を迎えに来た山梨氏は開口一番そう言い放った。


「…妻は…階段から転落して…」

「ほぅ?死亡診断書を書いた私の後輩は『傷だらけで死んでいた』と…」


  優秋は返答に詰まった。


「五寸さん、私は医者です。いわば“科学者”だ。医療は科学と同じで、 この世の常識で解決出来ないものはありませんからね。ですから、 貴方方のように“霊”だの“神”だのといった非科学的なものを信じる輩の本心を窺いかねる。 そんな非常識な環境で育った健君とうちの達樹が仲良くするのは迷惑なんですよ」

「迷惑だなんて、そんな!!子供には子供の考えや感情があるでしょう!!」

「たとえそんなものがあっても、将来医者になる達樹が こんな非常識的な人間と付き合ったらどうなります? 変な術か何かで洗脳され、達樹の人生は狂うでしょうな」

「それは神霊者に対する偏見と侮蔑です!!」

「何と言われようが、私は貴方方と達樹の付き合いを考えさせて貰いたい。 では、学会があるので失礼する」


  言いたい事だけ言って、山梨氏は出て行った。


「…おれ、おやじになにいわれようが、けんとはしんゆうだからなっ!!」


達樹は山梨氏に引っ張られながら、振り返って笑顔でそう言った。

  その後、達樹の両親は医学の研究やら学会やらで家を空ける日が続く。 達樹は実は小学2年から中学3年の間、片手で数えられる日しか親の顔を見ていない。
  もっとも、帰ってくる日は予めお手伝いの宮下ハナが連絡を受けているため、 その日は達樹はずっと自宅にいて健との事を言われないようにおとなしくしていた。

  健は宮下に何度も会ったことがあるが。


「あらっ、君が健君?達樹ぼっちゃまと仲良くしてくれてありがとうね♪ 健君も今度ぼっちゃまと私が住んでるおうちへいらっしゃいね。 怖いおじさんやおばさんはしばらくいないから、 おうちの中でかくれんぼしてもおにごっこしてもいいわよ♪」


  初めてハナに会った時、彼女は下町のお母さんって感じの雰囲気で 健の頭をわしわし撫でてくれた。それに、健や優秋の『力』に対する偏見や軽蔑心も全くなく、 むしろ「山梨家に住みついてる旦那様と奥様という鬼を払ってください」と本気で頼みに来たくらいだ。 彼女も自分の仕える主にいい感情は抱いていないようだ。




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