学校の階段!?

父(前編)

8

  そんな穏やかな日々が続き、健は順調に小学校を卒業した。


  そして…。


「父さ〜ん、ただいま〜♪」


  白いカッターシャツに学生服のズボンをはいて、 学生鞄を抱えた健が勢い良く玄関の扉を開けた。

  今日は中学最初の終業式、明日から夏休みだ。鞄の中には通知表が入っている。 体育はやっぱり「2」だ。どうしてもマットで後転が出来ないのだった。 でも、国語と家庭科が「5」だった。凄く嬉しい。 早く父さんに見せなきゃ――その一心で健は帰路を早めた。

  しかし、家にいるはずの父は何処にもいない。


「あれ〜?買い物かなぁ…」


  そう思って神社にいるはずの祖父の姿を探してみる。しかし、祖父もいない。


「…爺ちゃん?」


  数分後、境内の中で姿をやっと見つけた祖父は震えていた。


「…健…優秋が……」

「父さんが…まさか!?」


  境内―そこは健にとって1番足を踏み入れたくない場所。

  7年前、自分が殺めた母とその腹の中にいた弟妹の姿がフラッシュバックする。

  健は神霊術で明かりをつけ、祖父の後ろを覗いた。

  しかし、そこに倒れているはずの優秋はいない。


「…な…何だ、驚かせないでよ爺ちゃ〜ん…てっきりここで父さんが…」

「死んだんじゃよ、優秋は…」


  祖父の震える声で紡がれた言葉に健は耳を疑った。


「な…何言ってるの?!何処で父さんは・・・」

「ここでじゃよ」

「爺ちゃん?!!しっかりしてよ!!父さんの遺体なんて何処にもないじゃない!!」

「健…優秋はわしの目の前で死んだんじゃよ…魑魅魍魎に体を食いつぶされよった… だから亡骸が…ないんじゃよ…」


「…うそだ…」

「本当じゃよ…わしはここに磔にされて…その目の前で…」



「…嘘だぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!!!!」

  健の叫びが、境内の中にこだました。




  父の葬儀で達樹はずっと健の隣にいた。達樹の両親はその席で、 健や顕彰に罵声を浴びせることもなく、他の参列者と同じように焼香して帰っていった。

  健はそこで「不幸な子」と言われることとなる。相次ぐ両親の不可解な死、 それは一般市民には奇妙としか言いようのないことだった。

  暑い7月の終わり、蝉が異様にうるさかった。


それからもう、3年もたつ。




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