学校の階段!?

父(前編)

9

  健はお膳を運んでいる間、ずっとそれを思い出していた。


(父さん…もう3回忌かぁ…坂下さんに1日外出許可を貰わなきゃ…)


  墓は家の近くの寺にある。雪葉と優秋の名は墓の側面に、まるで寄り添うように隣同士に刻まれている。 毎年、両親の墓参りを欠かしたことはない。本当は命日に行きたかったのだが、 神宮へ来た翌日だったので行きそびれていた。


(今回は何の花を買って行こうかなぁ…ひまわりばっかじゃ飽きるかな…)


  あはは、と微笑む健。ここまで元気になれたのは達樹と顕彰のおかげだ。 勿論、撫子や坂下、それに他の友達のおかげでもある。

  そして、もう一人――


「・・・五寸様?」


  その声で健は我に帰った。振り向くと、そこには白井が立っていた。不思議そうな顔つきである。


「どうかなされたんですか?笑って…」


  「あぁ、いえ…」と言いかけて、健は笑った。


「父さんの墓参りに行こうと思って、何の花をお供えしようか迷ってて…」


  「父さんもお母さんも花好きだったから…」と健は笑った。


「白井さんは何がいいと思います?…あ、白井さんに聞いても駄目かぁ…」


  「すみません」と言って苦笑いすると…。


「・・・ベラ」

「え?」

「・・・アイツは、ガーベラが好きでしたね…」


  健はビックリした。どうして優秋の好きな花を知っているのか。何故「アイツ」呼ばわりするのか。 ひょっとして…。


「父を…知っているんですか?」


  白井はフッと笑って、健の耳元で呟き、去っていった。

  健はその言葉にお膳を落としそうになった。慌てて振り返るが、そこに白井の姿はなかった。


「私は、優秋を殺した男ですから」




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