学校の階段!?

父(後編)

13

その後、どのようにして“門”が消えたかは分からない。 健が気がつくと、横に白井がいて、二人で必死に“門”を閉じようと頑張っていた。


「ふぇ〜〜〜・・・疲れたよぅ〜・・・・・・・」

健はどさっとその場に倒れこんだ。桜儚の姿の雪葉は健に近寄り、優しく抱きしめた。

「おっ、お母さ・・・!!」

この歳で母親に抱きしめられるのも恥ずかしく、健は真っ赤になった。 もっとも、理由はそれだけではないのだが・・・。

「健、お疲れ様〜♪桜儚ちゃんも褒めてるわ〜♪」

雪葉の笑顔は、健の思いを全て見透かしているようだった。 健はそれが分かって、更に顔を赤らめた。

「シロ君」

白井も同じく床に倒れこんでいたが、見上げると雪葉が笑顔で手をさしのべていた。

「お疲れ様♪」
「・・・ユキ・・・何故だ、何故私は罰を受けなかった・・・」

“門”のことではない。人間として、受けなければならない罰があるはずだ。
雪葉は「そんな事」と笑った。

「だって、健はもういいみたいよ」

ねっ、と雪葉は健の方を向いた。健は達樹の治療を始めているところだった。

「白井さんの辛さは十分分かりましたよ。 父さんはどうか分からないけど・・・僕はおあいこだと思います」

それに、と健は付け加えた。

「父さんの答えは、僕より“白井さん自身”の方が聞けるでしょうから」

白井は目を見張った。

「・・・知っていたのか、私が“魂だけの存在”だと」

そう、白井の肉体はもはやこの世にはない。 3年前のあの日、“門”から溢れ出た魑魅魍魎達に、 優秋の肉体と共に食い尽くされていたのだ。 彼は魂に残った強大な霊力を軸に、肉体のようなものを形成していただけだった。 “門”に魂を食われるということは、一生“闇”の世界で生きていくこととなる。 白井はそれを受け入れようとしていたのだった。

「これでも、神霊者の端くれです。それから・・・お母さんがずっと、あの場所にいたことも」
「・・・ごめんね、どうしても皆が気になって・・・」

“あの場所”―雪葉が死んだ、あの場所に、彼女はずっと“いた”のだ。

「優さんは知ってたみたいだけどね、たまにふらっと来て『元気?』って言ってくれてたわ〜。 私は何も答えられなかったけど・・・」

さて、と雪葉は健から少し離れた。

「健、短い間だったけど・・・嬉しかったわ。 桜儚ちゃんにいつまでも体を借りてても悪いしね・・・」

その言葉が何を意味するか、健には分かっていた。

「父さんには、会えるのかな・・・?」
「勿論♪優さんとは絶対に出会えるわ、夫婦ですもの♪」
「・・・お母さん」
「ん?」
「・・・元気でね、爺ちゃんのことは僕に任せて」

こ〜ら、と言って雪葉は健に笑顔でハンカチを渡した。

「ダメよ、男の子がすぐ泣いちゃ・・・健は泣き虫だったもんね」

こらえようとしても、あふれ出てくる涙。健は言葉を忘れ、母のハンカチでそれをぬぐった。

「じゃあね、健・・・私達、そろそろ行くわ」
「健君、向こうで・・・優秋に色々言っておくよ。 それから・・・総代にすまないと言っておいてくれないか」

はい、と健は短く返事をして、精一杯の笑顔を作った。

「あ、そうだ・・・」

雪葉は消えいく中、健にそっと耳打ちをした。 健は耳まで真っ赤になったが、手を振って笑顔で光に包まれる二人の姿を見送った。

「桜儚ちゃんのこと好きでしょ、頑張ってね」




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