学校の階段!?

父(後編)

5

「・・・お・・・かあさん・・・?」

そう、10年前にもうこの世にはいなくなってしまった人の声だった。

「・・・ユキ、なのか・・・?」

これには白井も驚きを隠せなかった。言葉がうまく出てこない。 姿形は三つ編みの巫女姿の少女だが、声も雰囲気も、昔とまったく同じだった。

三つ編みの少女の姿をした彼女は、そっと頷く。

「シロ君も、久しぶりね」
「あ、あぁ・・・」

すっかりうろたえる白井に向かって、彼女はそっと微笑んだ。

「シロ君ってばすっかりいい歳になっちゃったわね、最後に会った時よりしわ増えてる」

そして、そっと白井の頬に触れる。その手に、白井の手が重なる。

「シロく・・・」
「ユキ・・・」

そして、いきなり抱きしめた。

「?!」
「ユキ・・・私のユキ・・・私が・・・私が愛してやれば・・・お前を死なせずに済んだ・・・!!」

白井の言葉に思わず熱が入る。ずっと心の中に溜めてきた、その想いを少しずつ爆発させていく。

「アイツが・・・優秋が、君を守らなかった・・・ 私と約束したのにだぞ・・・?2つもアイツは約束を破った!!」
「シロ君、それは違うわ」

雪葉はそう言うと、ゆっくりと自分の体から白井を引き離した。その目は、しっかりと白井を見ている。

「・・・ユキ?」

白井は何故雪葉が自分から離れるか分からなかった。

雪葉は笑うこともなく、ただまっすぐに白井を見つめている。 それは、白井も…健すらも知らない、雪葉の真剣な顔だった。

「お母さ・・・」

心配する健の頭を雪葉はそっと撫でる。体は桜儚、中身は母。 とても変な感じだが、彼は分かっていた。自分の頭を撫で、 「大丈夫よ」と優しく笑いかけたのはどちらか一人ではなく、“二人”だということを。

「・・・シロ君、あなたは優さんを誤解している」
「馬鹿な?!どこを誤解したと・・・?」
「優さんは私を守らなかったんじゃない、守れなかったのよ」

雪葉のその言葉に、健も白井も固まった。

「お母さん、それって・・・」

白井の言葉を代弁した健の問いかけに、雪葉は頷いた。

「健も、一時あったわよね?霊力が落ちてしまった時期が・・・」

健は頷いた。そう、桜儚にとり憑かれた初期の頃の話だ。

「まさか、優秋が霊にとり憑かれていたとでもいうのか?!」

白井の言葉に雪葉はかぶりを振る。

「優さんはね、“わざと自分にとり憑かせた”のよ。 緑ヶ丘町を…この世界を守るためにね…。だから、霊力がほとんど無かったのよ」

「・・・何だって?」

そして、雪葉はその時の出来事をぽつりぽつりと話し始めた。




前ページ<=>次ページ



序章へ戻る
トップへ戻る