学校の階段!?

父(後編)

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緑ヶ丘町は平安の世からその名前が残る、由緒ある土地だ。

そのせいか、古来より妖の類が多く蔓延り、それを本来あるべき場所に還す“神霊者”達が ここに神社や寺を構えることが多かった。その中でも最も強大な霊力を持っていた 大羽氏一族が建てたのが「大羽神宮」。ちなみに、健のご先祖様である五寸釘氏は室町の人間である。

しかし、そんな環境でも妖は一向にこちらの世界へ来ることを止めなかった。 彼らの本来の住処である“闇”よりも住み心地の良い“光”の世界、 つまり人間達の住む世界に憧れていたのだ。そして、人間達を滅ぼし、 こちらの世界を支配することが彼らの夢であった。

ちなみに、幽霊と妖は違う。幽霊とは、元々人間など、 “光”の世界に命を授かったものが死んで魂だけをこちらに留めたものをいう。 妖は“闇”の住人のことである。今となっては幽霊も妖も全て“神霊者”が祓うようになり、 中でも西洋においては幽霊のみを祓う“除霊者”が中世頃から現れ始めた。 “魔女”は黒魔術と呼ばれる行為で妖と不当に契約を結び、 “闇”の力を使うものを言うのでこれまた別である。

そんなわけで、神霊者と妖の戦いはもはや千年以上も続く大戦争となっていた。 霊力を持たない普通の人間達はそんな戦争のことなどとっくに忘れていたが。

そんなある日のこと。

緑ヶ丘町のある場所で、1人の子供が行方不明になったというニュースが流れた 。まだ幼稚園に入りたての女の子である。友達とかくれんぼをしていたところ、 その子だけが何時間たっても見つからないので、一緒に遊んでいた友達がその子の親に知らせ、 警察まで動員して大捜索となったのだが、全く見つからないというのだ。 誘拐ではないかと噂される中、ある老人はこう言い放った。

「神隠しだ!!神隠しに違いない!!」

実はその女の子達が遊んでいた場所は、古くから建っている祠の周辺だったのだ。 その老人によると、その場所は昔からよく小さな子供達が神隠しに遭うというので有名なのだという。 困ったその子の両親は、藁にもすがる思いである神社を尋ねた。


「で、娘さんを神隠しから助けて欲しいと・・・そういうわけですね?」

想像していたより若くて整った顔立ちの神主に、彼らは驚いた。

「・・・はい。私達はとにかく、娘を返して欲しいんです・・・ 誘拐だろうが神隠しだろうが、そんな事はどうでもいい・・・!!」

父親がそう言って拳を握り締めると、母親がわっと泣き出した。 同席していた白い肌の美しい女性が母親を宥め、お茶をすすめる。

「分かりました!!お任せ下さい!!」

神主は明るく笑顔で言った。あまりにもあっけらかんとしたその笑顔に両親は一抹の不安を覚えた。

「大丈夫ですよ〜、優さんはこう見えて凄い人ですから♪」

白い肌の女性は、同じくあっけらかんとした笑顔で言った。


「いや〜♪雪葉ちゃんにそう言ってもらえると嬉しいなぁ〜♪」
「だって優さん凄いんだもん♪」
「・・・雪葉ちゃん♪」
「・・・優さん♪」

神主と妻であるその女性は、依頼人そっちのけでラブモードに突入しかけた。

「これ、優秋!!雪葉さん!!早く仕事をせんか!!」

彼の父にそう怒鳴られるまでは。




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