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学校の階段!?

第1章  出会いは始まり

5

 大羽高校入学式。それはまさに、眠気との闘いである!!

健は自分の脳味噌内にそう定義づけした。
式が開始してもう1時間になろうとしているが、開始5分後に始まった校長の式辞はまだまだ続きそうな予感がする。

「退屈だ〜…。」

健は心の中でそう思った。そして、さっきまでいた幽霊少女の事を考えていた。

「あの子…何で僕なんかにとり憑こうとしたんだろ?」

『もう憑いてるわよ?』

びっくりした。

トイレのウオッシュレットから梅昆布茶が出てきたくらいびっくりした。
その上あずきバーなんて出てきちゃったらたまったもんじゃない。

「え?!き、君、自縛霊でしょ?!何で移動できるの?!!」

『あら、詳しいのね。』

「そりゃそうだよ!!家が神社だから僕も神主の血が流れてるんだ。だから、小さい頃から『見えないもの』がほとんど見えるんだ。まぁ、今はそれも制御できるようになったけど…。」

健は少し遠い目をしながら心の声で言った。

『あなた…顔の割に結構苦労してるのね。』

「か、顔の割にってど〜いう事?!」

『うふふ…冗談よ、冗談!!』

健は自分の心臓がハートビートモーターズなのを感じた。
彼女の笑顔は今まで見てきたどんな女性のより可愛かった。

『…どうしたの?』

「え?!あ、べ、別に何でもございませんでござるよ?!!」

健はとってもでんじゃらすな日本語を巧みに使った。
幽霊少女はジト目だった。

『そういえば…あなたの名前まだ聞いてなかったわ。』

ふと思い出したように少女が言った。

「あ、そうだね〜。僕の名前は五寸健だよ。」

『五寸?!!』

少女はとっぴな声を上げた。

「え?ど、どうしたの?!」

『私が生きてた時、級友の中に同じ苗字の奴がいたのよ… 嫌いだったわ。』

「は、はは…そうなんだ…」

彼女の言葉が健の胸に一撃必殺だった。

「で、君の名前は?」

精一杯「何でもないよ〜光線」を振りまいて健は尋ねた。

『私?私は桐生桜儚(きりゅう・おうな)。どう?雅な名前でしょ?』

自分の苗字と同じくらい変わった名前である。しかし、その名前が示す通り桜儚の見た目は美しく、ほっそりしていて儚げである。

幽霊だと分かっていても、とても…。

『何よ、人の顔じ〜っと見ちゃって…さては惚れたわね?』

余りに爆弾発言で、健は座ってる椅子からずり落ちそうになった。

「ち、違うって!!!」

『あらぁ〜、照れちゃって…現代の男子もまだまだおこちゃまね〜。』

健の胸にさっくり刺さるものがあった。

「…そ、それよりどうして僕にとり憑いたの?何か目的があるんでしょ?」

図星を川のせせらぎに流しておいて、健はずっと聞きたかった事を聞いた。

『そうなのよ!!よくぞ聞いてくれたわ!!』

ぐわっと桜儚の声がたくましさ全開になった。

『私ね、階段から落ちたのはある男のせいなのよ。』

「え?そうなの?」

『そう、だからそいつにとり憑いて死ぬまで不幸のどん底にしてやろうと思って♪』

可愛い顔して割とやる(てか、凄く怖い)性格である。
健はその男に対し、せめて葬式だけは参列しようと思った。
しかし、肝心の自分にとり憑いた理由が分かってなかった。

「…それで、僕にとり憑いたのは…?」

『あなたにくっついてその男を捜すためよ♪決まってるでしょ♪』

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっ?!!!!!!」

健は今度こそ椅子からずり落ちるかと思った。

「そ、そういえば君…自縛霊だよね?何で自由にとり憑けるの?!」

そう、彼女は死んだ場所(階段)から動けないはずである。

『そ〜なのよ〜。私も初めはそう思ってたんだけど、 閻魔様に聞いたら自縛霊はある事と引き換えに誰にでもとり憑けるようになるんだって。』

「ある事…?何それ?」

健は「閻魔様」という単語を綺麗に箒で掃いて聞いた。
しかし、何故か桜儚はぷいと横を向いてしまった。
よほど触れられたくない事だったに違いない。
健は悪い事聞いちゃったなぁ…と、少しの間うつむいた。

「あ…あのさ、桜儚…」

健は謝ろうと思い、もう一度横を向いた。しかし、そこには誰もいなかった。

校長の式辞はようやく終わりを迎えようとしていた。







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