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学校の階段!?

第1章  出会いは始まり

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  その後、健と達樹は先生に遅刻の理由を言い、(勿論桜儚の事は言ってないが)教室でのHRも順調に進み、入学初日の行事はすべて終了した。

「きり〜つ、きをつけ〜、さよ〜なら〜。」

仮に号令の係に任命された不幸な出席番号1番の奴の号令が教室中に響き渡り、担任の坂田先生はようやく満足げな表情で教室を後にした。

 そして、教室では生徒達の「友達作り大作戦」が繰り広げられていた。
説明しよう!!これは入学式から1ヶ月ほど1年生の教室で見られる儀式であるが、このクラスはなかなかその儀式が終了するのも早そうである。女子も積極的に男子に話しかけている…それというのも。

「ねぇねぇ、山梨君は中学何部だったの〜?」

「俺?中学の時はバスケとテニスと剣道かけもちしてたよ。」

女子のイエローな歓声があがった。

「え〜、すっごぉ〜い!!スポーツ万能なんだ〜!!」

このブリッコ入りまくりな声の時、女子はたいてい自分をアピールしている。
だが、山梨達樹はそんな事ミドリムシほども気付いていなかった。

「いや、単に部長達から頼まれただけだし…」

「でもぉ〜、山梨君今日の式で新入生代表挨拶してたじゃん〜。勉強もデキるんだぁ〜!!」

「いや、あれは親が校長の友達で…」

「何言ってるの〜、山梨君中学の時いつもテストで1番だったじゃん!!」

同じ中学の女子の余分な一言で女子のイエロー歓声は最高潮に達した。
こんなは〜れむ状態の輪の外で、他の男子は愚痴こぼし会を開催していた。

「ちぇっ、オイシイ所は山梨が独り占めかよ。」

「スポーツ万能、成績優秀、おまけに容姿端麗で親は医者ときた。」

「これじゃあ勝ち目無ぇよなぁ…な、五寸?」

「え?何が?」

健は話は聞いていたが、内容は全く理解していなかった。
その場にいた男子一同は椅子からずり落ちた。

「お前さぁ…あんな奴が友達でプレッシャーとかかからないわけ?」

「別にかかってないよ〜?だって達樹凄いもん〜。僕、尊敬してるよ〜。」

男子一同は健が人並み外れた奴だと心の中にしかと刻み込んだ。

「おい、健〜。帰るか?」

は〜れむな輪の中から達樹がひょっこり顔を出した。

「え?う、うん!!帰ろ〜!!」

「え〜!!もう帰っちゃうの〜!!」というイエロー歓声を後にして、達樹と健は教室を出た。

  


             「お前、あの幽霊少女の事気にしてるだろ?」

廊下に出るなり、達樹は小声で尋ねてきた。

「え?!ど、どうして分かるんでございますですか?!!」

とっても素敵にたじろいで健はごまかした。

「お前な、何年親友やってると思ってるんだ?」

「もしかして、それでいきなり『帰ろう』なんて…?」

「当たり前だろ〜が。親友の悩みをほっとくと思うかよ?」

健は達樹の優しさをありがたく思いながら、入学式で桜儚が何処かへ行ってしまったことまでを話した。

「なるほどねぇ…。で、お前はどうしたいのさ?」

「そりゃ、謝りたいよ。桜儚を傷つけちゃったんだから…」

健の歩みが止まった。

「…桜儚、死んだのはある男のせいなんだって。まだ生きたかったんだよ…だから死んだってだけでもショックなのに、僕は…僕は…」


ばしっっ!!


達樹はもう少しで涙が出そうな健の肩を叩いた。

「い、痛いよ達樹〜…何する…」

「何暗くなってんだよ!!ほれ、謝りたいなら探しに行くぞ!!」

そう言うと、達樹はニカッと笑ってみせた。

「達樹…うん!!」

二人は並んで歩き始めた。健は隣を歩く親友に改めて感謝した。




 大羽高等学校、第1棟1階。

いつもならこの階にある購買に人が殺到していて賑やかなのだが、今日は入学式のため人影はない。
そこを背の低い眼鏡少年と背の高いスポーツ青年は歩いていた。

「どうだ、健?いたか?」

スポーツ青年はキョロキョロしながら見えない捜索人を探す。

「いないよ〜…お〜い、桜儚ぁ〜!!いてもいなくても返事して〜!!」

眼鏡青年は間延びする声で到底無理な注文を捜索人に与えた。

「なぁ、健。桜儚さんは本当にここにいるのか?」

スポーツ青年、山梨達樹は五寸健にツッコミをすることなく質問した。

「う〜ん…確かに桜儚の『気』は感じるんだけど…」

健の特殊能力は只今フル起動中である。目で、先程感じていた桜儚の『気』の形を思い出しながらそれだけを探す。

…隣にある大きくて橙色のは達樹の『気』、目の前にチラチラしている紫色のは虫や死人の魂、そして…階段の踊り場に桜色の『気』を見つけた。

「いた!!桜儚ぁ〜!!!」

健はぽてぽてと普段走らない足で階段めがけ全力疾走した。
階段を一段飛ばし、…既に疲れてぜ〜は〜言い、ふらふらしながら上った。

「お…桜儚ぁ…ぜぇ…ぜぇ…やっと…見つけ…」

『…健?』

桜色の『気』が息のあがっている眼鏡少年に気付いた。

『どうしたの?そんなにぜ〜ぜ〜言って…』

「君を…探して…たんだ…。入学式の時…急にいなくなった…から…謝りたくて…」

『謝る?何をよ?』

一瞬、ウグイスが何処かでのどかに鳴いた気がした。

「へ?だ、だって…僕、君の気に障る事言っただろ?だからいなくなって…」

桜儚は透け気味の手でポンッと相槌を打った。

『あぁ〜、あれ?あれはタイムリミットだったからよ〜。』

「タイムリミット?」

健の頭の中にはカラータイマーの鳴るウ○トラマンがいた。

『そ。自縛霊が"契約"した人間にとり憑くことが出来るのは1日30分が限界なの。私は健が気絶してる時に健の魂と"契約"を交わしたわ。』

あれは夢じゃなかったのか…と健は"契約"を思い出した。

・・・。

『…ちょっと、何顔赤くしてるのよ。人の話聞いてる?』

「えっ?!あ、も、勿論でござる!!」

健の頭からは蒸気がいい具合に出ていた。

「そ、それで…入学式の最中に消えたのはタイムリミットだったの?」

『ええ。まったく、不便な体よね〜。』

あなたの体は「体」と言えるのでしょうか…という突っ込みを健は心の引き出しの中にしまった。

「…そっか。僕、てっきり変な事言って桜儚を傷つけちゃったかと…」

あはは、と健は笑った。

『…健、あなた…』

「ん?何?」

『馬鹿よね。』

桜儚の一言は健の心に強烈なカウンターパンチを食らわせ… なかった。

「あはは〜、よく言われるよ〜。」

桜儚はぽかんと口を開けた。

『へ?…何笑ってんのよ、アンタ。私は馬鹿って言ったのよ?』

「うん、ちゃんと聞いたよ。」

『じゃあどうして笑っていられるの?悔しくないの?』

「うん、だって本当の事だもん。否定するだけの頭は僕には無いよ。」

桜儚は少しため息をついた。

『アンタって…本当馬鹿ね。』

「おい、健。どうだ?桜儚さん機嫌直ったか?」

ず〜っと黙って二人の行く末を見守っていた(一人は見えないが)達樹がやっと口を開いた。

「あ〜…何かね、機嫌が悪かったんじゃないんだって〜。」

「どういう事だ?」

二人の会話が健サイドでしか聞こえてなかった達樹には訳が分からない。

「実は…かくかく〜のしかじか〜でぴよぴよ〜って訳。」

健が説明すると、達樹は「そうなのか」と納得した。

「で、どうすんだ?お前、これから桜儚さんの手伝いすんのか?」

「う〜ん…今日はとりあえず家に帰るよ。詳しい話はまた明日…」

『何悠長な事言ってんのよ!!私はもうアンタにとり憑いたのよ!!するに決まってるでしょ?!』

桜儚の甲高い声は健の脳味噌にぐわんぐわん響いた。

「わ、分かったよ〜…だから、今日はもう遅いから明日から…」

『…ま、いいわ。今日は勘弁してあげる。』

健はほっと安心した。

『ただし!!明日は朝イチでここ来るのよ!!良い?!』

健にしか見えない仁王様がそこにはいた。

小さく返事をして、健と達樹は高校生活初日を終えるべく学校を後にした。







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