今日の学校での行事は学力診断のテストの山だった。
「そんなの入試で分かるじゃん!!」という生徒達のブーイングを尻目に、国語・数学・英語の3教科が行われた。
終わった後の生徒達は、皆放心状態だった。難しかったらしい。
「なぁ、五寸〜。出来たか〜?」
健の後ろに座っている男子生徒が声をかけてきた。
「あはは〜…駄目駄目。僕、中学の知識なんか入試で全部抜けたから…」
健の脳味噌からは煙が出ている。
「そっか〜…アイツは出来たのかな?」
男子生徒の声は急に小さくなった。
「アイツ?」
「山梨だよ、や・ま・な・し!!」
「達樹ぃ〜?」
健はちらっと達樹の顔を見た。少しうつむいている。
「数学で計算ミスしたみたいだよ〜。」
「え?!な、何で分かるんだよ?!」
男子生徒はたいそう驚いて問うたそうな(昔話調で)。
「え?だって、顔見れば分かるよ〜♪」
「そ、そうか…じゃ、じゃあな!!」
笑顔で答える健を見て、男子生徒はそそくさと帰って行った。
「あれ?何か変な事言ったかな?」
「おい、健。」
健は黒板の方に向き直した。達樹が鞄を持って立っていた。
「…あぁーっ!!行こう、達樹!!」
その行為が何を意味していたのか健はようやく分かったらしい。慌てて筆箱を鞄に詰め込むと、教室を後にした。
目指すは、第1棟1階である。
『遅いじゃない!!何やってたのよ!!!!』
昨日「朝イチで来い」と命令を下した待ち合わせの相手は怒りを噴火させた。
「ご、ごめん桜儚…今日は朝からテストで…」
健は余りの見事な噴火っぷりに恐怖を感じた。
『テストなんかより私の積年の恨みを晴らす方が大事でしょーがぁっ!!!』
「ご、ごめんなさいーっっ!!」
これでは幽霊ではなく生身の人間と接しているようである。
「健、桜儚さん何だって?」
桜儚の噴火顔が見えない達樹が尋ねた。
「あ〜…すっごい怒ってる…」
「みたいだな、その反応じゃ…」
『…ま、いいわ。今日の所は勘弁してあげる。さ、健。行きましょ♪』
桜儚は怒りを沈めたかと思うと、いきなり浮かんで飛び出した。
「ぐえっ!!」
既に健は『移動可能モード』の桜儚にとり憑かれている状態になっているらしく、彼女の飛ぶ方向に引っ張られ、首が絞まった。
「お、お〜な…タ、タンマ……」
バタッッ!!
情けない声を最期に出し、健は息絶えた(気絶した)。
『きゃぁーっ!!健、しっかりー!!一体誰がこんな事を…』
桜儚はとり憑き相手が来ない理由がやっと判り、急いで戻ってきた。
「健?!おい、健!!どうした?!原因は桜儚さんなのか?!!」
『ちょっと!!私が何したっていうのよ!!』
桜儚の甲高い声も、人間の達樹にはいい具合に聞こえなかった。