健と桜儚はまず第2棟から見て回ることにした。
大羽高校には棟が9つあり、それぞれに名前が付いている。
ここは全国でも有名な受験校なので、クラスは成績順で決まっている。
そして、同じ学年でもクラス毎に棟が違うのだ。棟が第1棟に近い棟ほど成績が良い。
生徒達は何とか上に行こうと必死な人もいれば、もう第9棟でいいやと投げやりな人もいる。
ちなみに、健と達樹の教室は第2棟にある。
「何で僕が…」
クラス発表の時、健は思わず呟いた。
それもそのはず、
健の中学校の時の成績は後ろから数えて5本の指に入るくらいだったのだ。
ここに合格した事さえ奇跡に近い(むしろ奇跡そのものだ)のに、第2棟とは…。
『それは奇跡じゃないんじゃない?』
桜儚はあっさりそれを否定した。
「何でさ?」
『だって、健がここに入れたのも、2組になれたのも、
健が一生懸命頑張った結果じゃない。もし健が頑張らなかったら、今ここに健はいないわ。』
確かにそうかもしれない、と健は思った。
『自信持ちなさいよ。』
まったく、と言ってふっと微笑んだ桜儚の顔は誰かに似ている気がした。
あったかくて、優しい……。
『さ、しんみりム〜ドはここまでよ!!案内してくからしっかり叩き込むこと、いいわね?』
いきなり桜儚が強く言った。健は戸惑いながら、はいはいと返事をした。
顔は桜儚の心遣いが凄く嬉しくて、笑顔だったが…。
校舎に入り込む日の光は、一人の少年の影と少年にしか見えていない一人の少女を明るく照らしていた。