学校の階段!?

第3章  桜儚の思い出

『あら、今日は達樹君一緒じゃないのね。』

  桜儚はいつもより沈んだ顔の眼鏡青年を見て喧嘩したのかしらと思った。

「うん、達樹は今日家の都合で…」

そう、山梨家の家政婦宮下ハナ(年齢不詳)がもの凄い情報を手に入れたと達樹に電話してきたのはつい5分前だった。

『ま、私はアンタがいれば良いんだけどね。さ、行きましょ♪』

「う、うん!!」

桜儚の言葉が健の純情少年魂を揺さぶった。

「そういえば、桜儚の怨んでる人ってどんな人なの?」

そうだ、すっかり聞くのを忘れていたと健は歩きながら思った。

『…聞きたい?』

嫌な笑みを浮かべた桜儚からは黒い『気』が出ていた。

「…出来れば。」

どんな怨霊パワーが来るか健は胸ポケットに忍ばせておいた五寸神社特製「交通安全」お守りに手を当てた。
しかし、返ってきたのは普通の言葉だった。

『アイツは…そう、健みたいだったわ。』

「へ?!ぼ、僕?!!」

『そ。牛乳瓶の底みたいなぶ厚〜い眼鏡かけてて、髪も寝癖満歳で、な〜んか頼りなさそうで…。』

「ははは…」

健は苦笑いでサクッと笑い飛ばした。

『でもね、ちゃんと良い所だってあったのよ。』

「良い所?」

『うん、すっごいお人よしだったの。アイツ、いっつもクラスの皆が嫌がりそうな仕事押し付けられてたのよ。黒板消し、金魚の水槽の掃除、廊下の雑巾がけ、ゴミ出し、飼育小屋の掃除に、毎日の花の水かえ。…でも、アイツは嫌な顔一つせず笑顔でやってたわ。そんなのを見てるうちにね…いつの間にか私もアイツの手伝いをするようになってたの。』

おかしな話でしょ、と彼女は苦笑いをする。
そんな事ないよ、と言いながら、健は桜儚の顔がいきいきとしていることに気付いた。心臓辺りがチクッとした気がした。

「それで?二人、仲良かったんだよね〜。」

『…そうね。アイツといっぱい喋るようになって、アイツの良い所にいっぱい気付いたわ。でも…』

そこから、桜儚の表情には一気に影が差した。

「あ、お、桜儚…あのさ…」

健はそこまで言いかけて、何を言って良いか分からなかった。
すると、目に2年生の教室に飾ってある花が飛び込んできた。

「ほら、見て見て桜儚!!あそこに飾ってあるカスミソウ!!」

桜儚は何処よ、と言って健に促されるまま花瓶の花を見る。

『へぇ〜、白くて綺麗な花ね…私の時代はこんな花無かったわ。』

誰もいない教室に入り、そっと触れようとする桜儚を健は後ろから見ていた。

「桜儚…花って、綺麗だよね。」

『?…当たり前じゃない、何言ってんのよ。』

「…えっと、前に誰かから聞いた話なんだけど、子供に花に関する名前を付けるのは綺麗に育って欲しいからなんだって。でも、綺麗になって欲しいのは外見じゃない。心だよ。心が綺麗な人って、自然に外見も綺麗になってくんだって。でも、僕は両親はそこまで望んでないと思う。どんなに世間の汚さに出会っても、どんなに正しさを貫くのが難しくても、そんな汚い心を持って欲しくない。自分が正しいと思った事を純粋にやりとおして欲しい…そう思って花に関する名前を付けるんじゃない?」

『健…。』

「桜儚のやろうとしてる事が汚いとは思わない。僕もやっちゃうかもしれないから。それは、僕も桜儚も世間の汚さに汚れちゃったのかもしれないけど…僕は、桜儚は綺麗なまま霊になったと思う。憎い相手の良い所をいきいきと言えるなんて、普通の人には出来ない。だから、僕は桜儚に協力する。いつになるか分からないけど、必ずその人を見つけ出すよ!!」

健の顔は背後から差す夕日のせいもあって真っ赤だった。でも、その目は本当に真剣だった。

『健…。』

「あ、あれ?ぼ、僕…何言ってるんだろ…えへへ…」

途中から話の趣旨が分からなくなってしまった健は笑ってしまった。
桜儚はそっと健の目の前に寄ってきた。

「え?!お、桜儚…」

吸い込まれそうな真っ黒な瞳に見つめられ、健は再び沸騰した。

『…アンタの目、とっても綺麗よ。』

「へ?!」

『だからっ!!…アンタも…綺麗ってことよ…ありがと、嬉しかった。』

桜儚は顔を真っ赤にして健から目を逸らした。
健は思わずクスクス笑ってしまった。

『な、何よ!!ほれ、とっとと探す〜!!!』

「はいは〜い。」

『返事は1回!!』

その声は健だけへの照れ隠しだった。






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