学校の階段!?

第3章  桜儚の思い出

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  達樹が山梨家を出たのは日も暮れかかる頃だった。

「はぁ〜、これで遠藤さんちも平和になるな♪」

一人で謎の言葉を呟きながら、3つ目となる門を開ける(幾つ門あるんだ)。
すると、目の前には人が端にずらっと並んでいた。

「達樹様、先生が車でお待ちです。」

一番前の右端にいた達樹の父の秘書が低い声で言った。

「親父?!何でいるんだよ、学会でワシントンじゃ…」

「学会も終わりまして、ニューヨークへ発つ前にこちらに寄りたいと…」

「同じアメリカ国内行った方が良いじゃねーか!!」

まったく、と言いながら門を一つずつ開けて外に向かう。
最後の門を開けた時、目の前にはリムジンが止まっていた。

「達樹、乗りなさい。」

ドアを開けさせ、せかしたのは達樹の母親だった。
しぶしぶ乗ると、父親は運転席にいた。

「あれ?今日は自分で運転するのか?」

「…さて、行くか。」

そう言うと、父親は後部座席のドアを再び閉めさせ、アクセルを踏んだ。
向かう先は、達樹には分からなかった。


  着いた所を見て、達樹は驚いた。

「…五寸釘神社…?」

まぁいいかと思い、達樹は健の家の方へと足を進めようとする。

「待ちなさい、達樹。お父さんが健君に話があるの。」

「親父が?」

母親の言葉で達樹は立ち止まる。そして、三人で玄関のチャイムを鳴らした。

「あ、達樹〜。おかえ…」

いつものように達樹を迎えようとした健は時が止まった。

「…久しぶりだな、健君。」

「お久しぶり、元気そうね。」

「…あ、こ、こんばんは…どうぞ、お上がりください。」

やっと現世に戻ってきた健は3人を上げ、お茶を出した。

「それで、あの…」

お盆を持ったまま正座してオロオロする健を、達樹の父はギロッと睨んだ。

「…うむ。実はだな、達樹との付き合いを止めてくれぬか?」


「「え?!!」」


余りの予期せぬ発言に健も達樹も飛び上がった。

「ど、どういう事だよ親父!!」

「…達樹、お前は将来どうするつもりだ。」

「え?」

達樹は急な質問に驚いてストンと腰を下ろした。

「どうって…医者になるよ。駄目なのか?」

「…ならば、医者になる厳しさを知っておるか。」

「厳しさ?」

「…私もお前と同じ道を辿った。普通の高校に通い、大学は医学科を目指した。しかし、医学科に入学するには並大抵の勉強じゃ入れんのだぞ。」

「お言葉ですが、達樹は昨日の学力検査ではほぼ満点でしたが…」

健がそう言うと、達樹の父はふっと笑った。

「これだから困るのだ。私はどんなテストも満点だった。それでも3浪した。」

「3…親父が…?」

達樹はショックを隠しきれなかった。

「…そう。それほど厳しい倍率なのだよ、今も昔もな。」

達樹の父は少し目を細めた。
達樹は全てを見透かされそうな気がして、父から目を背けた。

「…親父、少し時間くれねぇか?健にも俺にも心の整理がある。」

「…分かった。」

「あなた、そろそろ飛行機が…」

達樹の母が腕時計を見て亭主の背広の裾を弱く引っ張った。

「…じゃあ、私達が日本に戻ってくるまでに整理する事だ。いいな。」

そう言うと、達樹の父はのっそりと立ち上がった。

「じゃあね、達樹。」

母はスクッと立ち上がって、父の後を付いていった。
座ったままの二人には壁の柱時計が7時を打つのも聞こえなかった。






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