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学校の階段!?

第5章 安息、そして…。

  1年2組にもだいぶ慣れてきた…と健は思う。
クラスの皆は健の『力』をまだ知らない。それは、『力』を出すような事件がないからなのもあるが、今の健は『力』を無駄に放出出来るほどそれが無かったりもした。

  だから、健は「ちょっとボケた冴えない奴」としか認識されていない。…それでも結構ひどい形容詞だとは思うが、実際健は成績も良くないし、目立った特技もない。女の子にモテモテという訳でもない。同性でさえ、話が噛み合わない事がよくある。だから、クラスメイトの認識がこうなるのも無理はないのだ。


「なぁ、五寸(いっすん)。」

ある日の放課、後ろの席の奴が声をかけてきた。
名前は忘れたが、確かサッカー部だっけ…と健は思った。

「何〜?」

「お前さ、山梨の弱点とか知らねぇの?」

サッカー部は健の耳をぐいっと引き寄せてささやいた。

「弱点〜?!」

健の声が大きかったので、彼の口はサッカー部に塞がれた。

「…な、何で〜?」

「だってよぉ…俺、アイツにこの前サッカーで負けたんだよ〜!!」

健の記憶によると、確かこの男子生徒は1年で部のレギュラーになれたくらいの実力の持ち主だ。

「さすが達樹ぃ〜♪」

「おい!!」

健の口から出た言葉に、彼は突っ込んだ後、呆れた。

「…で、だ。」

サッカー部は健の言葉を待った…が、次の言葉は返ってこない。

「おい、五寸。俺の要求の返事は?」

「…へ?何だっけ〜?」

「だ・か・ら、俺にアイツの弱点を教えろってーの!!」

サッカー部は健の胸倉を掴んでカクカクした。
健は呼吸が危ういのを自覚した。

「おい、宇津井。」

サッカー部、宇津井は後ろから殺気のある声を聞き、振り返った。

「…何してんだ、お前?」

後ろには、引きつった笑い顔の才色兼備な青年が立っていた。

「あ、や、山梨…ち、違うんだよ…これは…」

宇津井は自分の死期を悟りつつ、必死に寿命を伸ばそうとした。
すると、達樹はにっこり微笑んで、健を彼から救った。

「あ、達樹〜。」

健は呼吸が落ち着くと、達樹の姿を見てにっこりした。

「大丈夫か、健?」

「うん〜。ちょっと苦しかったけど〜。」

健を見てニコニコしていた達樹は、その笑みを宇津井に向けた。

「宇津井〜。」

「は、はいぃぃぃぃっっ?!!!」

「今度の試合…覚えておけよ〜?」

笑顔はそのままだったが、声は1オクターブほど低くて殺気満タンだった。
宇津井は、今度の試合までに墓を買っておこうと思った。


「ちょっと怖かったよ〜、達樹〜?」

  お昼の時間、健は苦笑いしながらご飯を頬張った。いつも健と達樹は教室で弁当を食べる。勿論健の手作りだ。
大羽高校には購買の他、学食もあるのだが、2,3年がほとんど占領しているので1年は弁当組と購買組に分かれる。

「あれは宇津井の方が悪ぃの。気にすんなよ♪」

達樹は弁当に好物のひじきが入っていたのに感激していた。

「…う〜ん。」

達樹は健があまり食べていない事に気付いた。

「どうしたんだよ、あまり食欲無いみたいだけど…」

「…そ、そんな事ないよ〜。ひじき、ちょっと固かった?」

「いや、美味いよ♪」

達樹は気のせいか、と思いひじきを再びぱくついた。
気のせいじゃないのには気付かなかった。






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