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学校の階段!?

第5章 安息、そして…。

  霊力が戻った事を健は達樹に報告した。

「良かったじゃんか、元に戻って。」

達樹は少し土が付いた靴を手で払いながら言った。

「うん、良かったよ〜。これで桜儚の野望を叶えてあげられるよ〜♪」

健は、また忙しくなるね〜、と笑いながら言った。
達樹は靴を払う手を止めて、横にいる親友を見上げた。

「…ど、どうしたの?」

真っ直ぐ自分を見つめる達樹に健はドキッとした。
こんな真剣に見つめられたら、女の子は必ずKOだ。

「…健、桜儚さんは目的を果たしたらどうなるんだ?」

「へ?」

一瞬、言葉が出てこなかった。
  それは、自分もまた気にしていた事だった。

「そ、そりゃぁ…普通は…成仏しちゃうと思うよ。この世に留まる理由は無いんだもん…。」

でも、まだ先の事だよ〜、と健は無理に笑ってみせた。

「…そうか。」

達樹はぽつりとそう言ったきり、また靴を払い始めた。

もう、夕日が傾きかけていた。


「先輩。」

階段では、坂下が桜儚と話していた。

『何よ、あらたまっちゃって。』

先ほどまでにこやかに笑っていた坂下の目が、急に真剣になった。

「…先輩は、このままでいいんですか?」

『…どういう事よ?』

「もう貴女が死んで75年、もうすぐ……」

『だから!!それまでに私はアイツを見つけるのよ!!』

「…でも、先輩の怨念が消えたら…」

『消える?そんな訳…』

「…健君、ですよ。」

『健?』

「あの子は、先輩の心を溶かしている。あの子が笑うたび、先輩の怨念が何処かへ消えていく。先輩は、怨念を忘れてあの子とずっと笑っていたいと願っているのでは…」

『ふ、ふざけないで!!!』

桜儚が叫んだ瞬間、近くの窓ガラスが数枚音を立てて割れた。
坂下はとっさに霊波で防御壁を作ったので、怪我は無かった。

『私はアイツを呪い殺す為に此処に存在するの!!どうして…どうして現世の人間と幽霊が一緒に生きたいなんて思うのよ?!アンタも本っ当に馬鹿ね!!いい?二度とこんな馬鹿な質問しないで!!』

それだけ言うと、桜儚は『気』を自分で消した。
そこには、本当に坂下一人になってしまっていた。

「…やれやれ、ガラスを掃除せな。」

そう言うと、坂下は箒を取りに階段を降りていった。
…後ろから、こっそり見ている少女の姿には気付かないふりをして。



『私が…健と…?冗談じゃないわ…』

坂下がいなくなったのを確認して、桜儚は呟いた。

『…本当…冗談…』

胸の辺りが、チクリと痛んだ気がした。

『…健は…』

それから先は、心の中で呟いた。


健は、私の事…どう想っているのかしら…?






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