学校の階段!?

第7章 狙われた桜儚(後編)

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  同時刻、用務員室。
普通の人間には誰もいないように見える部屋に、桜儚は一人座っていた。

結界からは出られない。健も近くにいないからとり憑く事も出来ない。
いつもだったら盛大に暴れているはずの三つ編み少女も今日はおとなしかった。

『…坂下、無事かしら。』

しおらしくうつむいている姿は超絶美少女なのだ。
そんな桜儚の脳裏に健の言葉が蘇った。

「…大丈夫だよ、桜儚。坂下さんはきっと大丈夫だから。ね?」
そして、あの時の健の顔を思い出していた。

優しすぎる微笑、優しすぎる声…。

『……健。』

桜儚の頬は彼女の『気』と同じ色をしていた。
少し高鳴る胸に手を当て、桜儚は目を閉じた。

『健…どうして私はアンタにしかとり憑けないのかしらね。』

…そう。どうして、私は健と――――。


その時だった。
室内に風が吹いたかと思うと、桜儚の結界の前には一人の少女が立っていた。

『だ…誰?!』

黒マントをたなびかせている少女だった。

「やっと見つけたぞ、"dirty phantom(汚れた亡霊)"!!」

桜儚は自分が震えているのが分かった。少女の瞳は血の色をしていた。

『アンタ、私が見えるの?』

声まで震えている。こんなのは初めてだった。

「Don't look down on me.(馬鹿にするな)私はこれでも『除霊者』のはしくれだ。」

少女は冷たく低い声で言った。

「お前を除霊する、ただそれだけの為に日本へ来た。」

『な…何で私なのよ?自縛霊なら他にいくらでも…』

「Shut up,"dirty phantom"(黙れ、"汚れた亡霊")!!」

少女は物凄い形相で怒った。桜儚以上である。

「お前は"汚れた亡霊"だ。もうすぐ『寿命』だというのに、お前の『気』は一向に衰えない。私は『除霊者』、"汚れた亡霊"をこの世から抹殺する者。」

そして、乱れた金髪を手で整えながら何とか冷静になろうと必死だった。
しかし、この少女が何をしに来たかは十分理解できた。

『それで、私を除霊しに来たって訳。』

「その通りだ。しかし、何故お前は私を恐れていない。」

金髪の除霊者は桜儚の声が通常に戻ったのを察知していた。
震えももう止まっていた。

『別に大した事じゃないわよ。』

桜儚は鼻でフフンと笑ってみせた。

『ただ…』

「ただ、何だ。」

桜儚は冷たい瞳の除霊者の顔を見て、笑った。


『頼れる人がいるのを思い出したのよ。』




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