学校の階段!?
第9章 小村雑貨店
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「ま、そんなこんなである日、桜儚が階段から落ちて死んだと全校集会で聞かされての。
勿論、皆が大きな衝撃を受けた。中でもわしとそいつは大きなショックを受けていた。」
口調がしんみりしていた。健も達樹も眉間にしわを寄せて顔を見合わせている。
そして、二人の胸には共通の「?」があった。
「あの、源三さん…」
「ん?」
健は恐る恐る尋ねた。
「どうして、そのー桜儚“さん”の想い人はそんなにショックを受けたんですか?
まさか、その人も……」
その言葉を唾と一緒にごっくんした。
源三は渋い顔をした。話したくないのだろう。
「一つ言えるのは、奴は桜儚に特別な想いを寄せてはおらんかった。」
健は自分の心の中がぐにょぐにょしているのが分かった。
安心の色と疑問の色がうまくマーブリングしている。
「あ、そういえば、どうして桜儚さんはそれを探してるって分かるんですか?」
少し早口で達樹が聞いた。
達樹は将来車の運転が上手くなるんだろうな〜、と健は思った。
「お、あぁ、これか。
これは奴が…その……健君の言葉を借りるなら“想い人”に贈った首飾りの片割れぢゃ。
もう一方はその“想い人”が持っとる」
「「え?!!」」
これには健どころか達樹もびっくらこいた。
昭和の初めにそんなイマドキな事してたのか、桜儚さん……って感じに。
健の方は口から魂出ちゃいそうだった。
「で、源三さんはその思い出の品を桜儚さんが探してると思って…」
源三は頷いた。彼は付け加えて言った。
「君らには訳の分からん話かもしれんかったが、わしがアイツにしてやれるのは多分これが最後ぢゃ。
頼む、この年寄りの願いを聞いてやってくれ。」
そして、さっきまでとは違う真剣な顔で頭を下げた。二人はうろたえた。
「そ、そんな…頭上げて下さい!!」
「そうですよ〜、それに僕も…」
健はその言葉をごっくんしようとして、止めた。
「僕もその桜儚“さん”に安らかに眠って貰いたいから…」
「健……」
達樹は親友の顔を見た。まだ幼さの残る顔は、立派に大人の顔をしていた。
源三は優しく微笑んで、健に首飾りを渡した。
「君には初めて会った時から不思議な感じがしておった。どうか、桜儚を…宜しく頼むよ。」
「はい!!」
健はニッコリと笑った。首飾りが窓から差し込んでくる夕日に反射して、虹色に輝くのが達樹には見えた。
それは、何とも不思議な色だった。
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